名画をのぞき込んでみると…
考える人
西洋絵画における頰杖のポーズには意味があり、「憂鬱質」の擬人像としても使われた。この憂鬱質は大凶の星サトゥルヌス(土星)の支配下にある不運な人々とされ、初期の絵画では陰気で怠惰だとして否定的に描かれている。ところが時代が下るにつれ、怠惰に見えるのは深い瞑想ゆえであり、芸術家や哲学者などに必須の性質と捉えられるようになった。ではこの鬱々とした男は、どんな状況下で何を思っているのだろう?
弱者切り捨て
不気味な高波。今にもバラバラに壊れそうな筏。帆を膨らませる強風。水平線の果てに微かに見える船影……まるでハリウッドのスペクタクル映画を先取りしたかのようだ。
構図もみごとなピラミッド型を成し、目覚ましい効果をあげている。下部には長々と横たわる死者たち、中ほどには病み疲れ、死を思う者たち、そして上部には生への強い執着を示す者たち。死から生へと身悶えしつつ立ち上がる生命力の強さが迫ってくる。
本作は発表されるや否や大評判になったが、それには作品の完成度以外の要素もあった。現実に起きた大スキャンダルだったからだ。
――ナポレオンが退場した後、フランスは王政復古を遂げ、ルイ十六世の弟が亡命先から帰国してルイ十八世となった。彼は国を革命前の状態にもどすべく、亡命貴族たちを呼び寄せて次々に要職につけたが、その中に、かつての海軍大尉ショマレー伯爵がいた。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年5月号