「どうしたらいい?」震災直後、彼女は言った
7月24日、歌手・俳優として愛されたジェーン・バーキンの葬儀は、パリのサンロック教会で行われた。宗教画や彫刻が飾られ、「芸術家の教会」とも呼ばれる。かつては劇作家ジャン・ラシーヌやピエール・コルネイユの、近年では小説家のフランソワーズ・サガン、ダンサーのパトリック・デュポンの葬儀が行われたことでも知られている。
弔問客は250名ほど。マクロン夫人、カトリーヌ・ドヌーヴなど著名人の姿もあった。外にはスクリーンが設置され、ファンのために葬儀の中継も行なわれていた。
印象的だったのが、棺が教会内に運ばれてくるシーン。通常は男性だけが担ぐところ、ジェーンの娘のシャルロット・ゲンズブールとルー・ドワイヨンが先頭で担いでいたのだ。しかも彼女たちは黒のパンツスーツに、白いスニーカーという男性的な格好で、教会内にはどよめきが起こったほどだった。その後、遺体はモンパルナスの墓地に埋葬された。
ジェーンが亡くなったのは、16日、フランス時間の日曜日の朝だった。その日、私は鎌倉の海岸で友人と過ごしていた。夕方、自宅へ戻ると、彼女の訃報が飛び込んできた。
涙が溢れるのを止めることが出来なくなったが、ふとジェーンだったら、こんな姿は大嫌いだったに違いない、と思い始めた。どんな時も誇り高く、他人に媚びず、凜として格好よく生きた。時に重い病に打ちのめされながらも、何度も立ち上がって、舞台に戻ってきた。旅立ちを見送るのに、涙は相応しくない。
翌日、シャルロットから、「お葬式に来る?」と、ショートメールが送られてきた。ジェーンは日本が好きだったから、「黒い着物の喪服で参列するけどいい?」と送った。するとシャルロットは喜んで、「ぜひそれで来て!」と。
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source : 文藝春秋 2023年9月号