6月9日午後、近くの高井戸警察署に運転免許証の返納に行く──
ある日、本誌編集者Sさん、Kさんと雑談していたとき、私が5年前に腰椎の手術を受けて、杖を必要とする生活になってからも、取材や講演で走り回っている日常を話したら、Sさんから、「その話、日記スタイルで書いたら、高齢化が急速に進むなかで、読者が関心を持ってくれると思いますよ」とそそのかされた。90歳が2年半後に迫っているけれど、そんな目先のことでは視野が狭くなるから、大胆に100歳を目指して一日一日をしっかりと生き、その証(あかし)として、今年(2023年)の誕生日から日記を書き始めているんですという私の話に、Sさんが興味を寄せてくれたのだ。というわけで、その連載を始めさせて頂くことになった次第です。
6月9日(金)
87歳になった。私は若い頃から、「何歳になったからどうの」といった年齢意識を持つことはほとんどなかった。高校時代から授業料は自分でバイトで働いて払うことにするなど自立心が強かったので、漢文の論語に出てくる「三十にして立つ」などという言葉に出会っても、級友と「三十なんて遅いよな」と語り合ったものだ。
とはいえ、87歳ともなると、心の片隅にちょっぴりだが小波(さざなみ)の輪が広がるのを感じた。
《この小波は何なのだ》と沈思黙考すると、私の心の深層に染みついている身近な親や兄や姉の死の年齢が浮かび上がってきた。父は戦後間もなく肺結核のため他界したが、母は84歳で脳梗塞死、長兄は83歳で肝がん死、長姉は88歳で脳梗塞死、といずれも80歳代で旅立っている。まさに私はその“適齢期”の真只中にいる。
それでも私の心に深く染みついている母が口ぐせにしていた言葉が、私の意思を支えてくれている。
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source : 文藝春秋 2024年1月号