気候変動随想

大村 智 北里大学特別栄誉教授
ニュース 社会 サイエンス

 近頃は、特段の仕事がない時でも郷里・山梨県韮崎市で月に1週間ほどは過ごすことにして、自然豊かな環境の中で、移りゆく時の流れを楽しんでいる。

 その帰省中に空の様子の異変が気になるようになった。雲の形が昔とはだいぶ変わってきたことだ。梅雨が明けると、甲府盆地を取り巻く山々の峰の上に青空高く入道雲が現れ、セミの鳴き声と共に夏がやってきたことを告げていた。ところが、近年はいつ梅雨が終わったのかわからない。気象庁でさえ梅雨明けの発表をためらっている。

 子供の頃は冬になると、家の周辺が真っ白な雪に覆われ、冷たい、清涼な空気に包まれることが多く、竹で作ったスキーで坂道を滑って楽しんでいた。今ではほとんど雪も降らず、子供たちは昔のようにスキーを楽しむこともできなくなっている。

 昨年は、東京都心で7月6日から9月7日まで64日間連続で最高気温が30度以上になり、山梨県では、9月下旬に35度以上になるなど、ごく身近で気象異変を体験することとなった。自宅の庭のフェンスに巻き付いたクレマチスが夏には大輪の白い花をつける。昨年もこれを楽しんだ。ところが、10月にすっかり葉を落として鉄線様の茎のみとなっていたところ、11月に入って突如として葉が付き、やがて大輪の白い花をつけた。これは、昨年の秋がなくて夏から冬になってしまったような気象異変に惑わされてクレマチスが再び花をつけたのだ。

 そこで、未だ我々が手にしていない有用な土壌微生物も多くが死滅しているのではないかと、見えないだけに気がかりだ。また、地球温暖化によってハマダラカの生息域が広がることで、未だに有効な制圧手段もないマラリアが日本でも蔓延するのではないかと、心配だ。

大村智氏 ©文藝春秋

 これらは、私のごく限られた生活圏内でのことだが、世界に目を向けると地球上で大変化が起きている。かつてない大干ばつにみまわれたり、大規模な山火事が発生した国々の様子や、記録的な大洪水によって集落が消えてしまったことなどがテレビで報道されている。

 このような世界的な気象異変は人為的な要因によるものであることに多くの人が気がついているけれど、的確な対策がなされないまま、今日に至っているのだ。

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source : 文藝春秋 2024年3月号

genre : ニュース 社会 サイエンス