国立民族学博物館(民博)は、本年、2024年に、創設50周年を迎える。
民博は、国立学校設置法の一部を改正する法律の施行により、1974年6月に、民族学・文化人類学とその関連分野の大学共同利用機関として大阪・千里の1970年大阪万博の跡地に創設された。その後、1977年11月に本館の新営工事が竣工して、博物館を開館。1989年には、総合研究大学院大学の博士後期課程の専攻を併設し、さらに、2004年の国立大学法人法の施行にともない、大学共同利用機関法人・人間文化研究機構の構成機関となって現在に至る。
55名を数える民博の研究者たちは、世界各地でフィールドワークに従事し、人類文化の多様性と共通性、社会の動態について調査研究を続けている。民博は現在、文化人類学関係の教育研究機関として、世界全域をカバーする研究者の陣容と研究組織、博物館機能を備える世界で唯一の存在であると同時に、その施設の規模の上で世界最大の民族学博物館となっている。
研究の展開とともに世界各地から収集された標本資料(モノの資料)は、34万5000点を超え、20世紀後半以降に収集された民族誌コレクションとしては、世界最大の規模をもつ。
今、世界は大きな転換点に立っている。これまでの、中心とされてきた側が周縁と規定されてきた側を一方的に支配しコントロールするという力関係が変質し、従来それぞれ中心、周縁とされてきた人間集団の間に、創造的なものも破壊的なものも含めて、双方向的な接触と交流、交錯が至るところで起こるようになってきているからである。その動きのなかで、世界には新たな分断が生じてきている。
一方で、2020年以来のコロナ禍を経験した私たちは、私たち人類の生活が、目に見えないウイルスや細菌の動きと密接に結びついていること、言い換えれば、われわれ人類もあらゆる生命を包含する「生命圏」の一員であることを、身をもって経験することになった。また、人新世などという時代の呼び方が唱えられ、人間の活動が地球環境そのものに不可逆的な負荷を与えていることが自覚されて、未来を見据えた地球規模での対応に迫られている。
このように、人類全体での協働が必要とされるにもかかわらず、それを妨げる力学が働いているというのが今日の状況である。それだけに、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くことが、これまでになく求められている。今ほど、他者への共感に基づき、自己と他者の理解を深めるという、人類学の知、そして民族学博物館の役割が求められている時代はないと思われる。
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source : 文藝春秋 2024年3月号