横綱に“完敗宣言”も大注目の“角界の星”

大相撲新風録 第37回

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ざんばら髪ながら、横綱照ノ富士を前にこの貫禄 ©時事通信社

 連日満員御礼の垂れ幕が下がるなか、横綱照ノ富士の9回目の優勝で幕を閉じた大相撲初場所。大関霧島の横綱昇進、関脇琴ノ若の大関昇進なるか、と場所前から話題だったが、“角界の大谷翔平”の呼び声高い大型新人、大の里の存在が、俄然、注目を浴びた。

 この初場所で新入幕し、前頭十五枚目の地位で9日目に早々と勝ち越しを決め、琴ノ若らとともに優勝戦線トップに並ぶ。10日目にはその琴ノ若との直接対決に敗れ、続けて大関豊昇龍にも黒星を喫す。それでも12日目には、逸ノ城以来10年ぶりに新入幕力士対横綱戦が組まれるほどの、大の里の快進撃だった。初金星を狙うも、相手はさすがの横綱だ。気鋭の若武者は照ノ富士に豪快に投げ飛ばされ、「何もさせてもらえず、びくともしなかった。いい経験ができました」と、すがすがしく完敗宣言したのだった。

 日体大時代に2年連続アマチュア横綱に輝き、2023年5月、幕下十枚目格付出で初土俵を踏んだ大の里。元横綱稀勢の里が構えた二所ノ関部屋で、現役時代さながらに稽古まわしを付けた師匠の胸を借り、逸材はさらに磨きを掛けている。192センチ、183キロの均整の取れた体躯に凜々しい顔付き。ファンサービスにも労をいとわず、サインや写真撮影におおらかな笑顔で応える。報道陣対応も丁寧で、記者らの好感度も大。日を追うごとにファンは急増し、スター要素を兼ね備えている23歳なのだ。

 誰もがその将来に「横綱大関は間違いなし!」と太鼓判を押している。誰よりも師匠の二所ノ関親方が、その大器ぶりを肌で感じ、「そのつもりで育てていきます」と言い切るほどなのだ。

 石川県津幡町出身の大の里は、このたびの能登半島地震で、故郷の実家も断水や停電の被害を受けたという。13日目には両親と妹が上京し、両国国技館で観戦。上位陣に3連敗して迎えたこの日は“電車道”の速攻で隆の勝を押し出し、家族の目の前で勝ち名乗りを受けた。

 千秋楽には11勝目を挙げて敢闘賞を受賞。モンゴル出身力士が上位を占める現在の大相撲界で、スケールの大きな“和製”横綱誕生の日が待ち遠しい。

 大の里は、復興の道を歩む“石川の星”であり“角界の星”でもあるのだ。

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source : 文藝春秋 2024年3月号

genre : エンタメ スポーツ