熱海富士(あたみふじ、静岡県熱海市出身、伊勢ヶ濱部屋、21歳)
九月秋場所を盛り上げる立役者となったのは、前頭十五枚目ながら優勝決定戦に臨んだ熱海富士だ。昨年11月九州場所で新入幕するも大敗し、幕内の壁に跳ね返されての再入幕。21歳の気鋭は1日80番もの稽古を重ね、先の七月名古屋場所では十両優勝、満を持して幕内の土俵に戻って来たのだった。
横綱照ノ富士が休場し、カド番大関の霧島、新大関として土俵に上がった豊昇龍らの成績がいまひとつ振るわなかったなか、単独トップの成績で優勝戦線を走った熱海富士。しかし、千秋楽に朝乃山に惜敗し、大関貴景勝に並ばれる。優勝決定戦では大関の変化に対応できず、土俵にバッタリと手を付いた。最速優勝記録を更新するか、と注目を浴びたなか、賜杯を目前で逃し、逆転優勝を許してしまったのだ。報道陣に囲まれた熱海富士は涙を堪えながら、消え入るような声でつぶやいた。
「勝ちたかったです……。もっと出足が早かったら対応できると、部屋の稽古でも言われていたのに、稽古が足らないですね。目の前に(優勝が)あったんですけど、本割も決定戦も……悔しいです」
喜怒哀楽が一挙手一投足ににじみ出る。ひとたび勝てば、目が一本の水平線になるほどの満面の笑みを見せ、負ければ涙を隠さない。取組後のファンサービスも丁寧で、国技館の出口にたどりつくまでに30分以上も掛かるほど。186センチ181キロの大きな体ながら、その無邪気で無垢な姿が大人気なのだ。
初めての三賞受賞となったものの、手放しには喜べない。「悔しいのはわかるけど、ちょっと笑ってくれるかな?」とのカメラマンの要望にも“熱海富士スマイル”は見えず。作り笑いができずに、なんともぎこちない表情を浮かべるピュアな21歳なのだった。
今場所の快進撃に、地元静岡県熱海市は沸きに沸いた。閑散とした支度部屋で、帰り支度をする熱海富士に尋ねてみる。
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source : 文藝春秋 2023年11月号