「どちらが正しいかは歴史が証明する」。大使として前例踏襲主義に抗い続けてきた(聞き手 城山英巳・北海道大学大学院教授)
「これまで日中関係の花は、人的往来と経済関係という2本の木から咲いてきました。今、その2本の木が倒れるのではないかと案じています」
昨年3月31日、北京の大使公邸で開いた「天皇誕生日祝賀レセプション」のスピーチで、私は語りかけました。
その10日ほど前に、日本の大手製薬メーカーの幹部Aさんがスパイ行為に関わったとして、中国の国家安全局に拘束されました。これは人的往来や経済交流など日中関係そのものを揺るがす大事件です。
しかも、Aさんは中国勤務が通算で20年以上、日系企業で構成される「中国日本商会」の副会長も務めていた。何度も食事をした間柄ですし、拘束される直前には、彼の送別会も開いていました。私は拘束の一報を聞いて、怒り心頭に発しました。
日中平和友好条約締結45周年に当たる年に開かれたレセプションでしたが、何もなかったかのように、お祝いの言葉だけで済ますわけにはいかず、中国側に抗議する必要があると考えました。
1972年の日中国交正常化を成し遂げた田中角栄総理は、中国にオオヤマザクラの苗木1000本を贈りました。そのうち180本が植樹された北京の玉淵潭公園に残っているのは、現在2本だけです。どちらも老木ですが、今でも美しい花を咲かせて、50年の歴史を色褪せることなくとどめています。この桜を人的往来と経済交流という2本の柱に例え、「日中関係を守り、再度美しい花を咲かせていく必要があります」と語り、中国側に警鐘を鳴らしたのです。
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