7月号の巻頭グラビア「日本の顔」には、声優界のレジェンド・野沢雅子さんにご登場いただきました。「ドラゴンボール」シリーズをすべて鑑賞してきたという小社カメラマンたっての希望でオファー。コロナ禍で一時頓挫しながら、やっと実現に漕ぎ着けました。
念願の初対面を果たしたのは、昨年12月。野沢さんが受賞された第71回菊池寛賞の贈呈式です。お嬢さんに付き添われて現れた野沢さんは、テレビで観たイメージそのまま。周囲を明るく照らす、鮮やかなオレンジ色の太陽のような人でした。
贈呈式では、選考顧問の阿川佐和子さんが壇上から受賞者のみなさまに祝辞を送るなか、野沢さんはひとり落ち着きなく、キョロキョロ——。物珍しそうに会場を見回しています。つづく壇上での挨拶では「182歳まで現役」宣言をして会場を沸かせます。マネージャーさん曰く、いつもは「128歳まで現役」を誓っていたところ、今回はうっかり、「182歳」までと口を滑らせ関係者もびっくり、だったのだとか。
そんな野沢さんの取材を通して、レジェンドの一類型を見出した気持ちがしました。みずみずしい感性を失わず、日々、感動し続ける。権威や権力とは無縁のあり方が、たくさんの方に夢を与え尊敬され続ける所以かもしれない、と。
「私ね、お医者に〝国宝級の声帯〟って言われたことあるんですよ」
アフレコの収録現場では、スタッフの心配をよそに、収録前も後もお構いなく声を張って喋り続けます。カフェテラスでお茶をする場面では、次々と冗談を繰り出してはお嬢さんから鋭い突っ込みを受けます。いちばん面白かったのが、ご自宅での日課となった「猫との戦争」。なんでも、庭に無断で入り込んで植え込みを荒らす猫を野沢さんが威嚇し、全力で追い払うのだそう。
「猫相手だからって、手加減しませんからね」
そう意気込む様子に思わず大笑いしてしまいました。残念ながら撮影許可は下りませんでしたが、あの声で猫と対峙する野沢さんの勇姿を、一度でいいから拝見したいものです。
(編集部・佐藤)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル