日仏で活躍した画家・藤田嗣治(1886〜1968)。映画「FOUJITA」を手掛けた小栗康平監督が、パリを魅了したフジタの「栄光と悲惨」を綴った。
藤田嗣治(以下、フジタと記す)は昭和43年に81歳で亡くなっているので、元号でいえば立派に昭和を代表する人ではあったのだろうけれど、昭和として括ろうとするとどうも窮屈で収まりが悪い。
フジタは明治19年の生まれだから、時代としてのスパンはもっと長いだろうし、日本の近代の問題として考えれば、ことは幾重にも入り組んでいる。
単身で渡仏して、エコール・ド・パリの寵児としてもてはやされるようになったのは1920年代の初頭のことで、日本では大正年代である。
一世を風靡した「乳白色の肌」は、フジタの十分に計算しつくされた画法だったとしても、1人の才能だけであれほど美しい画が誕生するとは思えない。大和絵、琳派、浮世絵と明治までは繋がっていた日本画の技法、伝統、美意識が初めて油画と結びついた奇跡の画と言っていい。これが昭和だったらどう現れただろう。「ジュイ布のある裸婦」のように無垢なままでいられたかどうか。
でも私たちは、フジタを昭和と結びつけたがる。日本の中国侵略とフジタの渡仏とは似ても似つかない事柄ではあるけれど、近代の受容をめぐって、海外へと思い詰めていったさまは一緒かもしれない。
自らを「フーフー」、お調子者と呼ばせて、騒がしいエピソードをたくさん持ったフジタと、戦前、戦後を大きく分かつことになった昭和という時代の「落ち着きのなさ」とが重なって見えもする。
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