「遅れ」をとることの倫理
かつて福田恆存は、「保守派は眼前に改革主義の火の手があがるのを見て始めて自分が保守派であることに気づく。……保守主義はイデオロギーとして最初から遅れをとつてゐる」(「私の保守主義観」)と書いたが、まさにエドマンド・バークの『フランス革命についての省察』は、そんな改革主義に対する保守派の姿を明確に示した史上初めての本である。
というのも、このバークの本自体が、フランス革命の動乱と、その未来に憧れを抱く軽率なイギリス人に対する「遅れ」た抵抗として書かれていたからである。
最初、バークを「自由の闘士」と見ていたフランスの青年貴族デュポンから、改めて革命についての意見を求められたバークは、その答えとして、長い手紙を書き送る。それが本書の原型となるわけだが、その内容は、デュポン青年の期待とは大きくかけ離れたものだった。
かつてインド統治の不正を批判し、アメリカ独立問題では植民地側の言い分に耳を傾け、王権よりも議会を重視するホイッグ党に属していたバークだが、フランス革命の「自由と平等」の理念に対しては、それを徹底的に批判するのだ。
では、フランス革命の一体何がそこまでバークの怒りを呼び起こしたのか?
それは、バークの「遅れ」とも関係があるが、基本的に世界を合理的に見透そうとする人間の傲慢と思い上りだった。
自由を遮る障害物にぶつかった個人は、そこから現実に先廻りをして世界と自分との関係を説明し、現状否定のイデオロギーを編み出し、その理念に従って社会を一から設計し直そうとする。が、バークは、そこにこそ現実否定のルサンチマンと理性の傲慢とを見るのだった。
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source : 文藝春秋 2024年8月号