私のスマホの待ち受け画面は、岩手山である。私は父が盛岡市出身なので、幼い頃からよく行き、岩手山は大好きな山だった。
そして最近、ニュースで騒がれたのが、この岩手山が居室から見えることが売りの高層マンション。古くからの街並みや眺望を壊すとして、市民の大反対にあっていた。
しかし、工事は進み、広告用のチラシを約7万枚配るところまで来た。そのチラシ写真も、ドカーンと室内から見える岩手山だ。……ではなく、岩木山の写真だった。
岩木山は青森が誇る山である。盛岡のマンションの窓から、見えるはずのない青森の岩木山が写真中央を飾っている。建設反対の中での大間違い。販売会社のタカラレーベンは本社が東京なので馴染みがなく、ミスしたではすまされない。制作の広告会社共にチェック体制もいい加減な、杜撰な仕事ぶりを露呈した。
岩手山や岩木山に限らず、全国各地の人々は、その地の山、川、祭に熱い思いを持っている。販売会社も広告会社も、いかにその思いに無頓着、無神経だったかがわかる。想像することさえできない。
全国の山、川、祭は、その地の人々のアイデンティティなのである(むろん、そうでない人もいるだろうが)。
もしも新潟県の長岡市に高層マンションが建つとして、「長岡の花火ヴュー」が売りだったとする。が、チラシには秋田県の大曲の花火がドカーンと出ていた。共に日本屈指の花火大会である。それだけに、長岡市民はいい加減に扱われたことを怒り、多くの新潟県民が黙ってはいるまい。
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source : 文藝春秋 2024年9月号