熊本市児童養護施設の性加害職員は8年間も見逃された こども家庭庁「国が指導できない」のはなぜか

熊本市で繰り返された性虐待の実態 第5回

三宅 玲子 ノンフィクションライター

電子版ORIGINAL

ニュース 社会

【記事のサマリー】
・「文藝春秋 電子版」で告発記事を公開した直後に、熊本市が突然、児童養護施設へ行政指導を行った
・疑惑の職員は退職したが、日本版DBS をかいくぐって復職する可能性もある
・こども家庭庁は、なぜ熊本市の担当局に指導しないのか

ひっそり退職していた理事長の息子 

 熊本市の児童養護施設における性虐待の問題を取材したのは昨年のことだ。1年をかけた取材では、特定の職員による「撫で回し」をはじめとした性暴力が長期間にわたって行われていた疑いが浮かび上がった。被害を訴えるこどもが続出したにもかかわらず、放置されてきた最大の原因、それは職員が当施設の理事長の息子だったことだ。2023年12月21日朝、「文藝春秋 電子版」で4本の記事を同時公開すると、その日のうちに父親である理事長は熊本市に出向き、対応を協議。理事長は施設職員たちに対し、「年明けに懲罰委員会を設置する」と説明した。

 ところが年が明けた1月第1週、理事長の息子は、ひっそりと退職した。懲戒免職なのか、自己都合による退職なのか、理由は施設職員にも明らかにされていない。

 私たちは昨年の取材で被害を受けた4人に直接会って話を聞いていた。すでに2015年には、被害児童の一人が児童相談所(以下、児相)の担当職員に被害を訴えていた。彼女は担当職員が替わるたびに訴え続けたという。別の被害児は、2018年に児相の担当職員に相談を始めている。だが、2023年6月、熊本市こども局の担当部長は私たちの取材に対し、「性虐待を行ったという証拠がない」として、当該の男性職員が女子棟に勤務し続けることについて、「施設内の人事に口出しする権限がない」と見解を示した。性暴力被害の食い止めを放棄したと受け取れる、人権リテラシーに欠けた発言だった。

記事の公開直後にわかった新事実

 話を、記事が公開された時期に戻そう。

 記事は、熊本県内の社会的養護関係者たちの間で瞬く間に共有され、今年1月には熊本県ファミリーホーム協議会(ファミリーホームとは家庭的養育のための小規模施設。県内8ホームが加盟)が、当該施設に対する強い指導と判断を求める意見書を熊本市に提出した。2月の市議会では村上博市議がこの一件に関して質問した。大西一史市長は「こどもの権利と尊厳が侵害されることは絶対にあってはならない。強い憤りを感じる」と応じたが、一方、こども局長は「一般論として適切に対応している」と、問題を長年にわたって放置してきた事実を認めなかった。その発言に児童福祉関係者は「局長の対応はひどい」と憤った。

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