エドワード・ホッパーの絵が与える想像の翼
朝日が当たる夏の森は鬱蒼と青葉が生い茂っていた。木々の奥深く広がっている暗がりの中で物影がちらりと動いた気がして、出窓のそばに佇んでいたアマンダは、思わず身を乗り出した。
と、この文は、たったいま、私が本書の口絵――アメリカを代表する画家、エドワード・ホッパーの作品「ケープ・コッド・モーニング」を見ながら書いたものだ。不思議なことに、ホッパーの絵を眺めていると、するすると物語が頭の中で動き出す。まるで映画のワンシーンを抜き出したスチール写真のような情景。それは日常の何気ない風景のようにも見え、何かとてつもないドラマが動き始める瞬間を切り取ったようにも見える。画面を満たす静寂と、登場人物たちの寂しげな、あるいは謎めいた佇まい。一体、何が画面の中で起こっているのかと深読みしたくなるのは私だけだろうか?
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source : 文藝春秋 2019年11月号