文春オンライン

岡村靖幸と講談師・神田松之丞が語り合った“結婚と幸せとモテ”

2019/02/03

source : 週刊文春WOMAN 創刊号

genre : エンタメ, 芸能, 音楽

note

思い通りにならないことのほうが音楽になる

岡村 幸せだと芸に対してハングリーになれないってことは?

松之丞 ないです。そこは別です。そもそもかみさんは、僕の講談をそんなに好きじゃないんです。

岡村 えっ? そうなんですか。

ADVERTISEMENT

松之丞 そこが心地いいというか。たぶん岡村さんのつきあってきた人って、岡村さんの音楽も好きでしょう? 岡村さんと僕とを比較するのも失礼ですけど、僕の場合、いつかこいつ(妻)に認められるようにがんばろうっていう感じがあるんですよ。お互い、一切、口には出さないですけど。

岡村 そういう関係はとってもいいかもしれない。

松之丞 すごく仲はいいんです。向こうも演芸の仕事をしてるので、何を話しても通じる。ラクなんです。結婚前は「家で仕事の話なんてしたくねぇ」と思ってたんですけど、実は僕、そういう話を家で結構したい人間でした(笑)。

岡村 そういう女性と出会えたからじゃないですか? 僕は真逆のことが多かったです。

松之丞 真逆、というのは?

岡村 女性と仕事の話をすることは一切ない。打てば響くし、話し甲斐もあるし、みたいなことならいいと思うんですけど、なかなかないですよね。松之丞さんは、昔の芸人がよく言う、「飲む打つ買う」みたいな遊びが芸の血となり肉となる、という考え方については賛同できますか?

松之丞 まったくできないですね。そういう時代もあったと思います。でも、いまはもう、将棋で言うと羽生名人みたいな感じですよ。あの人、将棋以外に興味なさそうじゃないですか。ああいう名人像のほうが、芸人でも多いと思います。

岡村 たしかに。野球選手なんかもそうかもしれない。

松之丞 大谷選手だって、野球以外に興味なさそうですしね。きっと彼は野球が一番楽しいんですよ。岡村さんはどうなんですか? 世代としては、ちょうど上と下の世代に挟まれていそうですけど。

岡村 ええ、僕より上の世代には、何をやっても芸の血となり肉となるみたいな芸事に対する神秘性を持っている人は多いですよね。僕自身も、人に会ったりということが、作品の血肉となることがあるほうですね。

松之丞 例えば歌手だと、お酒を飲むことは喉に負担をかけますよね。それでも飲んだほうがいいこともあるんですか。

岡村 うーん、芸事という意味での善し悪しはわからないですけど、お酒を飲んだからできるコミュニケーションや会話はあるんですよ。

松之丞 なるほど、そうか。

岡村 ミュージシャンは特にそうかもしれない。お酒を飲んで初めて見えた街の景色みたいなものを血肉化している人は多いですね。あとお酒で、惨めったらしい気分になることもあって、それもまた血となり肉となります。