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『だから私は推しました』脚本家・森下佳子が語る「地下アイドルの“危うさと美しさ”」

脚本家・森下佳子さんインタビュー #1

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――瓜田がハナのチェキ券を買い占めていて、それに対してハナが「瓜田さんに養われているような状態」と表現していましたが、あのような描写も取材をもとに書かれたんでしょうか?

森下 そうですね。取材で聞いた話をちりばめています。実際はチェキ券からのキックバックだけで生活するのは難しくて、バイトもしなきゃいけないとは思いますが。ただ、ギャラが物販に結びついているというのは、特に地下アイドルでは多いようです。そのパーセンテージに関しては、さまざま問題になっているところかと思います。酷いところでは、ライブを発表会か何かと勘違いしているのか、運営側がちゃんとギャラを払わないところもあるみたいです。

 

地下アイドルとファンの関係を象徴する「握手」

――やりがい搾取の構造ですね。そうした問題も抱えつつ、ひとたびステージに立てばファンになるべく近づいて、同時に適度な距離感も保たなければいけない。

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森下 その象徴が「握手」ですよね。ただ、握手というのも、地下アイドルにとってはすでに存在している仕事で、単純に「危ないからなくせばいい」というものではないと思います。

――一方で、第1回も第2回も、ラストで愛とハナが握手をして終わりますよね。あれは1対1の、等身大の関係での握手という感じがして、観ていてじんときました。

森下 本来、握手というのは美しいものだし、誰かを推すというのも美しい行為だと思うんです。ただ、そこに別のもの、応援するという気持ち以外のものがくっついてきたときに、おかしなことになってしまう。今回、「地下アイドル」を描くにあたっては、ここの難しさとも向き合わなければいけないな、と感じました。

写真=末永裕樹/文藝春秋

森下佳子(もりした・よしこ)
1971年大阪生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。2000年『平成夫婦茶碗』(日本テレビ)で脚本家デビュー。『世界の中心で、愛を叫ぶ』『白夜行』『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』(以上、TBS)など、話題作を多数手掛ける。2013年度下半期に放送された朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』で、第32回向田邦子賞と第22回橋田賞を受賞。2017年には大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)の脚本も手掛けた。

『だから私は推しました』脚本家・森下佳子が語る「地下アイドルの“危うさと美しさ”」

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