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クマはお互いに気がつかないと危ない

 山の危険な動物といえば、最近ニュースになることの多いクマについても聞くと、やはり山で遭遇することがあるという。

「目が合わない距離だけど、クマがいると下で音立てるようにしていますね。連れがいたらワーワー大きな声でしゃべるとか、そこらへんのものを叩いて音出すとか。木の葉が擦れる音とかでお互い聞こえないことがあるんですね。そういう時にこっちで人間が来たと知らせてやると、向こうも避けてくれる。とにかく自分が来たと物音を立てることを心がけています。お互いに気が付かないと危ない」

名人は、地面だけではなく上にも時おり視線を向ける

 きのこ狩りの最中、大乗さんの携行する鈴の音が辺りに響いていたし、筆者らと会話を絶やさなかったせいか、幸いなことにクマとの遭遇はせずに済んだ。複数人できのこ狩りをすることはクマを防ぐ他にも、複数の目で様々な方向に目が行くので、きのこが見つかる可能性が高まるそうだ。

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 取材前は厳しい藪の中を進むのも覚悟していたが、歩きやすい道を進むことが多かった。山に慣れない我々への配慮かとも思ったが、大乗さんによれば、きのこも人間と同じで木漏れ日照らす風通しの良い場所を好むという。また、下草が刈られるなど、人の手が入った場所がいいとのことだから、歩きやすい道なのは必然なのだろう。

この日は歩いていると汗ばむほどの陽気だった

硬い柄を持つ大きなアカヤマドリが見つかった

 筆者は地面に目を凝らして進んでいたが、名人は時に木々にも目を向けていた。名人によれば元気な木にきのこは生えず、枝が2、3本ほど折れ始めてから「見所がある」という。だが、最近は木々の植生も温暖化の影響からか変わってきているという。12月に雪が降らないこともあり、きのこの生える時期も変わっており、きのこのピークが徐々に後ろ倒しになっているという。

 毒きのこや価値の低いきのこが続く中、硬い柄を持つ大きなアカヤマドリが見つかった。虫に喰われやすいきのこで、これも少し虫に喰われていたが、それでも食べられるという。煮物に入れるとカボチャのような色が汁に移るので、カレーの様な色の濃いものに入れるのがいいそうだ。

ようやく出会ったアカヤマドリ

 見つからないと言う割には、1時間という短時間で次から次へときのこを見つける名人。しかし、舞茸やなめこ、椎茸といった地域の人も採るものを別にして、それ以外のきのこを採るようになったのは、成人後だいぶ経ってからだそうだ。そのきっかけは、松が生えていない場所でマツタケを見つけたことだという。