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思った以上に雇用の安定はまだ実現できていない、ということ

 目を転じて経済全体の話を見てみると、先日ようやく春闘が終わって、連合が第3回集計を出しておられました。攻める側も守る側もお疲れ様でございます。見るに、経済状況を反映してまずまずの戦果であり、一方で大手と零細・中堅の間での格差の是正や、働き方改革の流れの中で残業代の支払いや時間制限なども徐々に盛り込まれて、日本の労働環境も少しずつ変わってきているのかな、という感じでしょうか。労働組合もここが頑張りどころと言えます。ようやく非正規労働者の賃上げ率が正規雇用を上回って、格差是正というか正規と非正規の垣根をどう取っ払うかが肝になってきているのでしょう。

春闘の回答 ©時事通信社

 しかしながら、実際に統計を見てみると2月の完全失業率は2.8%、有効求人倍率も1995年ごろの水準に迫る勢いで人手不足が深刻化しています。コンマ何%で賃上げ云々と言っている場合ではないぐらいに働き手が必要とされているのに、思った以上に雇用の安定はまだ実現できておらず、働く時間は減らす方向へ動いています。さらに、労働人口も年間50万人ずつ減っていく中で、24時間営業を取りやめざるを得なくなるファミリーレストランなどの外食産業も増えてきました。先日取り上げたようにヤマト運輸ほか運送業も人手不足の割に賃金が大きく上げられる状況ではありません(「お客様は神様ではなくなり、戦後は終わった」)。世の中をより便利にしていこうというとき、労働力を投入できなければどこかに無理が来るわけですね。本来なら、がっつり賃金が上がってきてもおかしくない水準であることには間違いありません。

人口減で経済成長するなんてシナリオになるわけがない

 働く女性を増やしたり、健康な高齢者にも働いてもらわなければならないわけですけど、16年10月の社会保険関連の法改正で制度変更があったわけですよ。それは、従業員501人以上の企業では、週20時間以上働くアルバイトやパートなどの短時間労働者も健康保険や厚生年金保険に入れてください、ということになったわけです。そうなったら週20時間以上働く長期バイトさんよりも、週15時間ぐらい入ってくれる主婦のパートさんを複数雇ったほうが企業としては良いという話になってしまうわけですね。また、健康上何があるか分からないシルバー雇用も、フルで働いてもらってうっかり倒れられて企業が医療費負担を強いられるよりは、嘱託で雇用して長くない労働時間で安く仕事をフォローしてもらおう、という流れになるのでしょう。平均賃金の伸び悩みの原因は、この女性や高齢者の労働市場流入で平均が押し下げられている部分が強くあります。保険料負担は企業にとってだるい。その分、パートさんの時給が上がれば良いのでしょうけど、賃金は上がらないのです。

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©iStock.com

 つまりは、人手不足の日本は文字通り「完全雇用」なんだけど、人口も減っているので総需要が減少してて言われているほど売り上げは上がらない、という残念なスパイラルが発生しているとも言えるわけですよ。これから名目GDPが何%も増えるなんてアベノミクスを信じるのは大本営発表を聞いて太平洋戦争に勝っていると思い込んでしまう臣民のようなものです。安倍政権が能無しというよりは、できること全部やったって人口減少局面の日本が猛烈な経済成長するなんてシナリオになるわけがないじゃないですか、という話です。これから人が減る、衰退する地方都市だけじゃなく日本全体が貧しくなり衰えていく途上で、夢のあるバラ色の話を信じる人は普段の生活でもマルチ商法に引っかかってると思います。できることを、できるだけやっていくしかない。経済成長は必要だから頑張って努力していくけど、前提条件となる労働人口が減っていくのだから、いっぱいいっぱい頑張って0.8%成長、それも中国をはじめ世界経済がまずまずどうにかなっているからこのレベルで済んでる、ってだけです。