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技術は後から解決するべきもの

――長回しのシーンで次々に場所を移動していきますが、一番気になったのはホアン・ジエとタン・ウェイが空を飛び地面に着地するシーンです。あれはドローンを使って撮影したのでしょうか?

ビー・ガン 技術面で種明かしをする前に、なぜそれを使う必要があったのか、というしばしば投げかけられる質問に答えておきたいと思います。出会ってからまだ間もない二人がいる。二人を描く際、お互いをよく知らない状態から愛の関係へと切り替えるには、文学の場合は何行かの文字で書き表すことができる。しかし映画という短い時間のなかで関係の変化を表現するためには、文学とはまた別の方法が必要でした。そこで二人が一緒に空を飛ぶという表現を考えついた。それによって、第三者が関係し得ない、二人だけの独特の記憶を表現できると思ったのです。

 

 次に、技術面についてお話ししましょう。たしかにあの場面ではドローンを使った撮影を行っています。でも通常の使い方では満足のいく効果は得られませんでした。最終的に考えついたのは、ちょっと笑ってしまうような方法かもしれません。磁石でカメラをドローンにくっつけて飛ばし、それが下に降りてきたところを、カメラマンがベスト型のスタビライザー(カメラ安定支持機材)で受け止めそのまま地上のシーンを撮り続ける、という方法です。カメラを受け止めるためには磁石を使いました。どのようにそれを受け止め固定させるかは、カメラの重さを計算しながら研究を重ねなければいけなかった。でもこうした試行錯誤は苦痛ではありません。僕にとって、技術は後から解決するべきものであり、重要なのは、そこで得られる効果への明確な考えです。映画はこういう方法で撮るべきだ、という考え方はなるべく排除するよう心がけています。

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――撮影方法は脚本にあわせた形で考えていったのか、あるいは撮影をするに従って脚本を変化させていくこともあったのでしょうか。

ビー・ガン 両方の場合がありました。脚本というのは、本質的な部分で常に想像力を必要としますから。一方で、脚本は、スタッフと私との間での大事な工程表でもある。撮影において何をいつどのように行うかを明確にするための道具でもあるんです。長回しの場面では、スタッフや俳優たちとの間に常に密なコミュニケーションが必要とされました。幸いにも僕には優秀なスタッフの方たちがついていたので、スムーズにとりおこなうことができました。