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『猫を棄てる』の挿絵を描いたのは? 台湾の高妍さんが語る「村上春樹さんとの出会い」

初めて読んだのは『ノルウェイの森』でした

2020/04/24
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『ダンス・ダンス・ダンス』を何度も読んだ

 “すきま”とは、一般的には物理的なモノとモノ、あるいは時間と時間の間みたいな意味だと思いますが、今回は音楽の“間(ま)”を指しています。私自身もそうなんですが、主人公は音楽の中の“すきま”がとても好きなんです。そんなマニアックなところに気づく人も、共感してくれる人もほとんどいないのですが、それでも音楽について語りたいという思いを描いてみたかったんです。

 それをどう表現にしたらいいかずっと迷っていたんですが、いろいろな小説を読むうちに、“すきま”がテーマとして取り上げられている作品が意外と多いことに気づきました。中でも伊坂幸太郎さんの『フィッシュストーリー』に感銘を受けまして。それを読んで、できる限りわかりやすい、シンプルな表現でやってみよう、と思ったんです。

間隙・すきま』の原作。「この作品は、昨年11月に日本で開催した個展に出したものです」

――『間隙・すきま』で、特に力を入れた部分や、読者に注目してもらいたい点はありますか?

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 冒頭のイラストレーションは、沖縄に留学した時の体験に基づいて作った「雨」のシリーズです。漫画は3編収録していて、そのうちの2つ、「序章」と「クジラ」ではグレーの紙を選びましたが、「隙間とバニラスカイ」では黄色に変えました。最後のページに描かれた雨上がりの空をめくった時に、「空は本当にバニラ色なんだ」と連想していただきたいからです。

 また、あとがきで引用した村上さんの『ダンス・ダンス・ダンス』のセリフは、大学3年生の時に読んで、とても惹かれた言葉です。まるで周りのことを考えられず、必死に絵を描いている自分のことのようだと思いながら、何度も繰り返して読んでいました。このあとがきを書いた1ヶ月後に、まさか村上さんとのお仕事のオファーをいただくとは思ってもいませんでしたが。

村上さんに会えたら話してみたいこと

――今回、「村上さんの挿絵を担当した」という経験は、今後の高さんの活動にどのような影響を与えると感じていますか。

 いまでも、このオファーをいただいたこと自体が不思議で仕方ありません。心から光栄だと思いますし、私の創作人生において大変な励みになる出来事でした。ただ、この仕事をしたから何かが変わるわけではなく、これまでやってきたことを今もやっているし、これからも変わらずやっていくのだと思います。あくまでも私は私のままで、好きなことをコツコツとやっていくだけなのかな、と。

――ありがとうございます。最後に、まだ村上さんとは直接お会いになっていないとのことですが、その機会が訪れたら、どんな話をしてみたいですか?

 村上さんの作品についてはもちろんですが、安西水丸さんの作品についてもお話ししてみたいですね。村上さんは音楽が大好きな方なので、音楽についても……。その頃には私の次の漫画もある程度進んでいるはずなので、それも見ていただけたら嬉しいです!

高妍(Gao Yan・ガオ イェン)

1996年、台湾・台北生まれ。台湾芸術大学視覚伝達デザイン学系卒業、沖縄県立芸術大学絵画専攻に短期留学。現在はイラストレーター・漫画家として、台湾と日本で作品を発表している。自費出版した漫画作品に『緑の歌』と『間隙・すきま』などがある。2020年2月、フランスで行われたアングレーム国際漫画祭に台湾パビリオンの代表として作品を出展した。

猫を棄てる 父親について語るとき

村上 春樹

文藝春秋

2020年4月23日 発売

『猫を棄てる』の挿絵を描いたのは? 台湾の高妍さんが語る「村上春樹さんとの出会い」

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