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「あと、ひと押しでインパールも陥落というところだ」

 瀬古大隊長がインダンジーに到着した時には、軍の戦闘司令所は移動したあとであった。牟田口軍司令官、参謀長久野村中将、高級参謀木下秀明大佐、平井文作戦参謀など、第15軍の首脳部をあげて、第33師団の司令部に前進したということであった。瀬古大隊長は、戦況が緊迫しているのを感じた。

 戦闘司令所が移動したあとの密林のなかの幕舎には、参謀がひとりだけ、連絡のために残っていた。半そで、半ズボンにビルマのサンダルをはいた、すこし、だらしのない姿でおうようにかまえていた。防衛参謀の橋本洋中佐であった。

「やあ、ご苦労、ご苦労。前線の状況は押しつ押されつだが、わしが参加した時のシンガポール陥落直前の状況と全く同じだ。あと、ひと押しでインパールも陥落というところだ」

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 橋本参謀は瀬古大隊長に自信にみちた言葉をはき、軍の戦闘司令所に急行して、軍の直轄部隊となるように指示を与えた。

「ただし、途中、33マイル付近の道路上に、2、30名のグルカ兵が出てきたようだから、それを軽く蹴ちらして行くんだな。落下傘でおりたらしい」

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直轄となれば軍司令部とともに入城する光栄を与えられることが予想された

 インドのグルカ族の兵は、英印軍のなかで一番勇猛であることは、すでに知れわたっ ていた。それがインパールを起点とする南道の33マイル付近に出てきたというのだ。それは、その方面に進出した日本軍の弓第33師団の戦線のうしろにあらわれたことになる。しかし、数がすくないから、たいしたことはないと橋本参謀は楽観していた。

 また、大隊が第15軍の直轄部隊になるということも、瀬古大尉らの気持を明るくした。第1大隊はインパールに向って進撃を命ぜられたが、どの戦線に行くことになるのかはわかっていなかった。本来、第1大隊は第10五師団、祭兵団の1部隊であるが、今度の行く先は、祭の戦線であるとは限らなかった。どこかの危急となった戦線に応急の増援として使われることが、当然予想された。このような場合は、他の兵団に配属されることになるので、兵たちはきらっていた。配属部隊は食事や宿営などでも、よそ者扱いで、待遇のわるいことが多かった。そればかりでなく、危険危急の任務を押しつけられるのが、軍隊の常識になっていた。指揮官は、本来の部下部隊をかばおうとして、配属された他部隊を犠牲にしがちであった。

 ところが、軍の直轄下にはいることは、厚遇され、活用されるように考えられた。ことに今度の場合、第15軍の直轄となれば、インパール陥落の時には、軍司令部とともに入城する光栄を与えられることが予想された。

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