人手不足はかねてから指摘されていた
しかし、10年代中期以降はSNSやネットがマイナスに働くことになる。ファンたちは表には見えないところで独自の情報網を築き、メンバー個々人の情報をやり取りするようになる。NGT48メンバーが襲われた事件は、その末に起きたことだ。
AKS社は、そうしたファンたちのコミュニケーション状況の変化に対応できなかった。運営側の人手不足はかねてからファンにも指摘されていたにも関わらず、マネージャーを増やすことはなく、ケア体制も整えることなく事件が起きてしまった。
最終的にこの一件は、事実関係がきわめて不明瞭なまま、AKS社が加害者のファンふたりに民事訴訟を起こし、今年4月に和解することで決着した。そしてこの4月には、AKSは社名をヴァーナロッサムに変え、AKB・HKT・NGTの各グループの運営から撤退。海外の48グループとIZ*ONEの国内活動のみに専念することになった。
NGT48の不祥事は、総選挙の中止だけでなく社名変更やグループ運営からの撤退など、大きなダメージをAKSに残したのだった。
2020年に発売されたCDは1枚だけ
そして最後は、新型コロナウイルスの直撃だ。もちろんこれはアイドルグループだけでなく多くの業界に打撃を与えているが、AKB48グループにとってはより大きなダメージとなっている。「会いに行けるアイドル」にとって、握手会やライブは感染リスクとなるからだ。
メジャーデビューした翌年の2007年から2018年まで、AKB48は年に4~5枚のペースでCDシングルを発表してきた。前述したように、それらには握手券や総選挙の投票券が封入されて発売された。しかし、2019年は総選挙開催が見送られたこともあり2枚のみ、そして2020年は3月の「失恋、ありがとう」だけとなった。コロナ禍で握手会を再開できないまま、2020年を終えることとなった。
新型コロナの拡がりは、だれにとっても不運であることに違いない。だが、AKB48をはじめとする、メンバーのパーソナリティに重心を置く日本のアイドルグループにとっては、より大きなダメージとなっている。
坂道グループも例外ではない。乃木坂46も2020年に発売したCDシングルは1枚のみだ。配信のみのデジタルシングルは6月と7月に2作発表したが、ビルボードチャートでは「世界中の隣人よ」が最高23位、小室哲哉作曲の「Route 246」は最高10位と伸び悩んだ。音楽の人気としては、乃木坂46もこの程度だった。結果、乃木坂は昨年9位だったビルボードチャートの年間トップアーティスト20位圏内からも落ちてしまった(AKB48は昨年すでに20位圏内から落ちている)。
冒頭で指摘したように、AKB商法とは一部のファンの熱意をCD売上によって一般化する“人気錬金術”を指していた。それは、乃木坂46でも同様だったということだ。もし本当に音楽の人気で勝負できるならば、コロナ禍でライブ活動や握手会ができなくとも、大きなダメージにはならないからだ。
オリコンからビルボードへ、主要メンバーの卒業・離脱、NGT48の不祥事、そして新型コロナの直撃──その延長線上にあるのが『紅白』落選だ。それは、必然的に訪れた展開だ。
(後編に続く)
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