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 10人ほどしかいないボランティアガイドも増やす方針だ。「クジャクは私達が気付かないほど小さな地震でも鳴き声を上げます。キジ科の鳥は足裏が敏感なので、わずかな揺れでも感じるのです。かつての日本人はそうしたキジの生態を知っていて、暮らしにいかしていました。現代は携帯電話の緊急地震速報ですが、動物から地震を察知していた時代もあるんですね。ガイドにはこのような話も伝えてもらいたいと考えています」。松本さんは目を輝かせる。

人気者のシロクマ。家族連れで賑わう熊本市動植物園

復興の象徴となったライオン一家

 熊本市動植物園が一部再開したのは、発災から10カ月後の2017年2月だ。ネコ科の猛獣が帰って来るまでにはさらにかかり、発災から2年半が経過した18年10月だった。全面再開は同年12月。被災から2年8カ月が経っていた。園内の水道の配管工事はこの直前までかかった。

 ライオンには後日譚(ごじつたん)がある。発災時、熊本市動植物園にはオスのサンしかいなかった。被災で飼育できなくなったサンは、「もう帰って来ないかもしれない」という不安を抱く松本さんら職員に見送られて、大分県の九州自然動物公園アフリカンサファリへ向かった。同サファリでは、相性のよかったメスのクリアとカップルにした。このため、帰還時のサンは、妻のクリアを伴っていた。

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ライオン。地震からの復興の象徴になった

 傷ついた動物園には久々の明るい話題だった。クリアは3頭の子を出産し、ライオンの獣舎は賑やかになった。生まれた3頭のうち、娘のサニー以外はサファリに移したので、現在は家族3頭で暮らしている。

 デマに始まった熊本市動植物園の混乱だが、ライオンの一家の帰還と出産は市民を挙げて歓迎され、復興の象徴のような存在になった。

 獣舎の前にはいつも人だかりがある。

撮影=葉上太郎