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男女いずれにとっても煩悩を起こす元となる?

 それに「特定の相手」と書かないことも、ある意味正しいのかもしれない。そうです。人間は時と場合によっては、特定の相手以外とも結合することもある。そして、文学が生まれる。「愛欲」「性愛」「性交」と来て、ここである語釈を紹介したいと思います。実は、これを見つけたのは何年も前なのですが、発表するちょうどいい媒体が見つかりませんでした。今回、文春オンラインの担当者に「ここ読んで」と言って読んでもらいました。ちょっと、わたしは口に出して言えない言葉だった。担当者も読み終わって、新解さんから顔をあげて、「あの、これは、一体……」と2、3秒困っていた。

「あのさ、これ、文春オンラインに書いてもいい?」

 と確認しました。担当者(男性・既婚)は

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「あ、それはOKです。何も問題ありません」と即答したので、満を持して今回書きます。

まら 【魔羅】〔「障害(碍)」の意の梵語の音訳〕〔男女いずれにとっても、煩悩を起こす元になる〕陰茎。表記「摩羅」とも書く。」
煩悩 〔仏教修行・精神安静のじゃまとなる〕一切の欲望・執着や、怒り・ねたみなど。」

第八版の「煩悩」

 いかがでしょうか。これ、読み終わって「はあ……」と、すぐには言葉が出てこない。びっくりする。そして、周りをきょろきょろしたくなる。「え、そんなに大変な物だったのか」と何かを発見した思いがする。「男女いずれにとっても」と、決まっているらしい。煩悩ですよ、煩悩。困ったことだ。大変深い洞察ですね。

 この言葉も自力では引けませんでした。何年か前、社のOBの岡崎さん(仮名)から手紙が届いた。岡崎さんは在職中から、わたしの新明解国語辞典への気持ち、調査、感想をいつも応援して、一緒に笑ってくれました。

 岡崎さんが下さった手紙が、見つからないのですが内容は覚えている。忘れるわけがない。

「わたしには、鈴木さんに新明解国語辞典で引いてもらいたい言葉があります。それは『魔羅』です。ふざけている訳でもなく、セクシャルハラスメントでもなく、わたしは真面目です。今日、図書館に行って短歌の雑誌を見ていたら(注・岡崎さんの手紙には短歌とその作者名がありましたが、思い出せません)『新明解国語辞典で魔羅という言葉を引く、こんなわたしの一日よ』というような意味の短歌がありました。一体何と書いてあるのだろうと、家に帰ってすぐに引きました。大変驚きました。研究熱心な鈴木さんなら、既に引いてご存知かもしれない、と思いましたが取り急ぎお知らせします」と、モンブランの太い万年筆の文字で、そう書かれていた。

 わたしは「まら」は引いていませんでした。そういう言葉がある、そう呼ぶこともあるとは一般教養として知っていた。でも、自分では積極的には引かないですよ。その理由は何か。うーん、一度知ってしまったら、もう以前の自分には戻れないという、おそれのためだと思う。

第八版の「魔羅」

 で、引きました。表記も2種類わかりました。どちらも大変こわい。ごつごつ筋張っていそう。春画に出てくる、ああいう物なのか。

 わたしは不勉強で、わかっていないことがたくさんある。だから自力で引けない言葉も、たくさんある。今回、それがよくわかりました。この先、更に精進し、七版と八版の変化を調査し、機会があればまたご報告出来れば、と思っています。

新解さんの謎 (文春文庫)

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文藝春秋

1999年4月9日 発売

新解さんの読み方 (角川文庫)

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2003年11月22日 発売

新解さんリターンズ (角川文庫)

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