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連載昭和事件史

《荒川放水路にバラバラ死体》岸辺に漂着した胴体、首、腕……現職警官惨殺事件

《荒川放水路にバラバラ死体》岸辺に漂着した胴体、首、腕……現職警官惨殺事件

被害者が警察官、加害者が妻の教師 「荒川放水路バラバラ事件」 #1

2021/05/16
note

「数人の犯行か」第一報の予想は…

 朝日の第一報は別項で「数人の犯行か」の見出しを立て、浦島一課長の説明をまとめている。それによれば

(1)    凶行現場は家の中

 

(2)    包んでいた新聞紙が朝日、毎日、読売、東京など数社のもの

 

(3)    切断面から普通のノコギリではなく、目の細かな金属を切るノコギリが使用された

 

(4)    刃物の使い方がうまい点などから、特殊な職業の者の犯行ではないか

 

(5)    単独犯行より数名の犯行説が濃い

 

(6)    現場からそれほど遠くない場所から柳こうりに入れて運んだ

 

(7)    死体のむごたらしさから肉親の犯行とは思えず、怨恨か痴情が原因ではないか

 という。3紙とも現場の写真と地図を載せているが、アシのようなものが生い茂った川岸に入り江が入り込んだ荒涼とした場所。地図と記事の説明は読売が詳しい。

「現場は西新井橋から約1700メートル上流で」「荒川放水路本流から幅10メートル足らずの入り江を経てプール状に水がたまっており、満潮時には下流から逆流する程度で、平常はよどんでいる」

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「捜査本部は満潮時に放水路から入り込み、漂着したものと推定。水流などを想定すると、上流江北橋付近が死体捨て場ではないかともみて放水路上流両岸を調べ、首手足の発見に努める」

事件関連現場の見取り図(「自警」より)

「密輸業者」「大陸仕込みの軍医」?

こうした不確定情報が飛び交った(毎日新聞)

 5月11日付夕刊は各紙、付近の捜索が続いていると報じたが、その中で夕刊読売は、板橋区志村の興行主の妻が「2月中旬から行方不明になっている24歳の次男ではないか」と届け出たと伝えた。

 5月12日付朝刊では、荒川放水路と流れを分けた隅田川の両国橋付近で、女子中学生2人が人間の右手が浮かんでいるのを見たと届け出があったことを各紙が報道。さらに5月13日付夕刊各紙は、同じく隅田川で首や手の目撃証言が複数あったことを載せた。

 これらは見間違いだったようだが、連日の報道で社会の関心は異様に盛り上がっていた。「捜索を見物するために繰り出した川舟は70隻とも80隻ともいわれる。その半数は弁当持参の一発屋カメラマンの素人」と「月刊警察」に1992~1993年に連載された大林茂喜「岩田政義昭和の事件帳第十一話 荒川放水路バラバラ事件」は書いている。

 5月12日付毎日朝刊は推理作家3人に事件について聞いているが、「被害者は密輸業者? 犯人は友人の中にいる」「動物死体を扱う者か 被害者の妻が犯人の情婦」「大陸仕込みの軍医? 被害者もくずれた生活」など、あとで真相が分かれば笑ってしまうような推理ばかり。

 5月13日付朝日朝刊には、死体を包むのに使われた新聞紙について詳しい内容が載った。それによれば、毎日新聞12枚、朝日新聞6枚、読売新聞2枚、東京新聞1枚の計21枚で、最も古いものは前年1951年1月2日付夕刊読売、最も新しいのは1952年5月4日付毎日朝刊だった。

 中で朝日新聞大阪本社発行の7版が1枚交じっており、「捜査本部では同紙の大阪からの入手経路に何らかのカギが秘められているのではないかとも見ている」と記事にはある。

 浦島捜査一課長の手記はさらに詳しい。(1)毎日の12枚は全て「●」が付いた自動車便による宅配の都内版で、配達区域が限定される(2)大阪朝日の1枚は前年3月25日付朝刊(3)日付を研究すると、購読を朝日から毎日に変えたとみられる――ことが分かった。