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「僕はそういう表現は使わないです」大谷翔平が“二刀流” という言葉を避ける“決定的理由”

「僕はそういう表現は使わないです」大谷翔平が“二刀流” という言葉を避ける“決定的理由”

『大谷翔平 野球翔年 I 日本編2013-2018』より #1

2021/08/22

source : Sports Graphic Number

genre : ライフ, スポーツ, 読書

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 しかし、ファイターズは球団を挙げて大谷を、投手として、また野手として、超一流の選手に育てようとしている。そして、球団の編成責任者であり、現在のファイターズのシステムを作り上げた吉村浩統括本部長も、この二刀流という表現には否定的だ。

どちらかの才能を潰すわけにはいかない

「我々もその言葉は使いません。これが野球とサッカーとかフットボールというのなら二刀流だと思いますけど、野球の中の話ですからね。大谷は投手としての能力が非常に高い。野手としての能力も、抜群に高い。僕らは軸をきちんと持っていて、投手と打者の両方で圧倒的に高い能力を持っているという評価をしているんです。それを両方伸ばすという、それだけのことです。大谷が投打の両方でプロの最高レベルに到達できるという評価をしたのなら、これはどちらかの才能を潰すわけにはいかない。奇をてらったことをしているわけではないんですよ」

 二刀流という言葉が一人歩きしているが、それは特別なことじゃないと吉村は強調する。予算内で効果的な編成をするためにファイターズが2005年、吉村を中心に取り入れたBOS(ベースボール・オペレーション・システム)の構築は、日本球界を驚かせた。一人一人の選手を誰もが把握できるよう、チームの選手、他球団の選手、アマチュアの選手をすべて数値化し、効果的な比較を可能にした。

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ドラフト1位を2人獲れたようなもの

 プロでの指導経験がなかった栗山英樹を監督として迎えた2012年。絶対的なエースだったダルビッシュ有をメジャーへ送り出しても、ファイターズはリーグ制覇を成し遂げる。北海道に移って9年、主力の流出を惜しまず、育成選手に手を出すこともなく、ドラフトで獲得した選手をきっちり育て、4度の優勝を勝ち取った。それは、この球団のBOSが機能しているからに他ならない。

 そんな理路整然とした方針を持っている球団が、本気で大谷の二刀流を後押ししている。どれほどの逆風に晒されようとも、決して揺らぐことはない。栗山英樹監督もこう言っていた。

©文藝春秋

「今年はドラフト1位を2人獲れたようなもの。ピッチャーの大谷翔平と、バッターの大谷翔平。どちらもドラフト1位クラスの逸材なんだから、そりゃ、二刀流だってやりたくなるでしょ。みんな、プロ野球では無理だよって言うけど、最初から無理だと言ってたらすべてが無理。簡単にイメージできるのは、野手でレギュラーを獲って、リリーフでマウンドに上がるという二刀流なんだけど、彼の感覚だと、エースで4番なんだよね。確かに、我々の感覚でもバッティングは必ず4番になれるわけだし、あとはエースになれるだけのものをどうやって作っていくかということ。それをこっちも必死で考えていかないとね」