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――マンガの反響で嬉しかったことを教えてください。

押川 現代の社会が見て見ぬふりをしている事象をマンガで明らかにしたことで、声すらあげられない対応困難な人たちが医療につながるきっかけをつくることができました。親との関係に悩み、自ら親を捨てて立ち直った当事者の方が、「押川さんが親を怒ってくれるのがいい。自分は間違っていないと思えた」と感想をくださるのも嬉しいですね。このマンガは多くの議論を呼んでいますが、それだけ多くの人が興味関心を持ってくれている証だと思っています。

 マンガ好きで有名な広瀬アリスさんや、音楽クリエイターのヒャダインさんがテレビや雑誌でおすすめマンガとして挙げてくださったことも、小躍りするくらい嬉しかったです(笑)。

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――最近は、「子供を産まない」という選択をする人も増えています。

 家族の問題に携わる中で言いたいのは、「子供を産むこと」について、もっと真剣に考えてほしい、ということです。私は長年、相談に来る親、とくに母親から「子どもなんか産まなきゃよかった」「あんな男と結婚しなきゃよかった」という言葉を耳にタコができるくらい聞いてきました。若い時は「お母さん、何を言っているんですか!」と怒っていましたが、最近はそれも一つの真実であり、答えではないか、と思うようになりました。

 少子化で国は子どもを産めといいます。さらに、女性のなかには、子どもを産んで一人前のような圧力が今もあると聞いています。そういうなかで、「家族」や「人間」とは何かという問いに対し、マンガでどう答えを出していくか。これは私が死ぬまで続くチャレンジだと思っています。

早い時期に介入できなければ難しい

――親が「子供を殺してください」といい、子が親を殺す…。この地獄に未来はあるのでしょうか。

押川 私は若者の自立支援にも携わってきましたが、年齢の壁はどうしてもあります。早ければ早いほどいい。というより、早い時期に介入できなければ難しい。最近は、保護者による虐待事件も増えていますが、マンガでも描いているように、子どもが突出しておかしくなる要因にはしばしば、親からの虐待や不適切な養育があります。

 

 虐待を受けた子どもへのケアはもちろん、虐待をしてしまう親へのカウンセリングも行うなど、問題が芽吹いた時点で対応できる公的な専門施設があれば、地獄を作らない未来を描くことができます。それは児童養護施設を中心にすることが最適だと考えています。子供の問題の入り口でありつつ、最後の砦にするということです。私は今後、地元である北九州市でこの構想を練り、「北九州モデル」の実現に向けて努力します。

 それも見越して、3年前から社会人学生として、大学で法律の勉強もしています。制度や仕組みを変えるためには、法律を作るしかないからです。法知識というさらなる力も蓄えて、病識のない精神疾患患者と、患者を抱える家族の命を守ることに、全力を尽くしていきたいと思っています。

「子供を殺してください」という親たち 1 (BUNCH COMICS)

押川剛 ,鈴木マサカズ

新潮社

2017年8月9日 発売