離れ小島──。なんとも心を揺さぶる言葉だ。同じ日本国内にありながら、特有の歴史と生物相を持つ場所。ただし一部の観光地をのぞけば、よほどの事情がない限り行く機会がない。
「文春オンライン」編集部では、そんな日本国内の離島にルポライターの安田峰俊氏を派遣。現地をルポしてもらうことにした。まず最初の訪問地に選んだのは、沖縄県内でも最辺境に位置する元「社有島」、南大東島だ。(全2回の2回目/前編から続く)
2ヶ月ぶりのお客さんだ
南大東島を代表する土産物は、まず魚のジャーキー(通称シージャーキー)と大東羊羹。それ以外には、島のサトウキビを原料にしたラム酒「コルコル」がある。2004年に設立された株式会社グレイス・ラムが作っている、比較的新しい名物だ。
「……ここに来たお客さんは2ヶ月ぶりだよ」
そこで在所から北東に1キロ。原付を飛ばしてラム工場に行ってみると、出てきたおじさんから開口一番にそう言われた。RPGに出てくる最果てのほこらの老人みたいなセリフを、まさか現実の社会で聞くとは。
そもそも社屋のたたずまいからして尋常ではない。なぜなら外観がどう見ても空港なのだ。1997年まで使用されていた旧南大東空港のターミナルの建物をそのまま居抜きで社屋にしたらしく、「株式会社グレイス・ラム」という社名の看板よりも「南大東空港」という文字のほうが大きい。
建物内部、販売カウンター後方のオフィスには昭和っぽいフォントの南西航空(現在の日本トランスオーシャン航空)や琉球エアーコミューターの看板が残っている。インテリアとして残しているのではなく、看板を外すのが面倒なので放置しているような雰囲気だ。
インバウンド中国人観光客すら来ない島
おじさんが出てきたのも「搭乗旅客待合室」と書かれた以前は旅客ロビーだったらしき部屋であり、室内には生活用具らしきものが見えた。先のセリフの通り、コロナ禍で来島者が激減しており、外部の人間がこの「空港」にやってくるのは2ヶ月ぶりのようだ。
「今年の7~8月に2人は来たかな。コロナ前は1日に10人くらい来たこともあったけど。ただ、それでも当時からインバウンドの観光客はほとんどいなかった。年に数人、韓国人客が来ていたくらいで……」
南大東島へのアクセスはなかなかハードルが高いうえ、宿泊施設の大部分はネット予約に対応していない。コロナ禍以前は日本全国で姿を見かけた中国人観光客も、さすがにこの島にはあまり寄り付かなかったようだ。
もっとも現地で聞き込んでみると、南大東島は観光以外の面では意外と「国際的」だった。島民人口1300人足らずのうちで、外国の出身者が30人ほどを占めるようなのだ。