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2021/11/13

genre : ライフ, 歴史, , 政治

 とはいえ、私が南大東島を訪れたときはタイミングが悪かった。台風が近づいていて漁船が出せず、インガンダルマどころかサワラやマグロを握った大東寿司(こちらも島の名物だ)すら品切れで食べられなかったのだ。しかもコロナ禍のせいで、ただでさえ多くはない島内の飲食店は半分くらい休業している。

この空と海を見ただけで、漁に出られないことは一目瞭然……。

 正直、私が今回の離島訪問企画の第1回の目的地として南大東島を選んだ理由のひとつは、以前にWikipediaで記事を読んだインガンダルマ(バラムツ)を島内で試食してみることだったので、食べられないのは大変に残念だった。中国人の江さんへの取材を終えたあと、雑談でなにげなくその話をしていたところ──。

「食べられるよ」

「え」

「島の人はみんな大好き。冷凍庫に凍らせてある。切ってあげるよ」

個人消費分のインガンダルマの冷凍魚肉を持ってきた江さん、不敵な笑み。

 なんと、インガンダルマの刺身をごちそうしてもらえることになった(注:繰り返し強調するが、販売されたわけではなく、自家消費用のものを特別に個人的にわけてもらったのだ)。

これがインガンダルマの刺身だ!

 インガンダルマの刺身はシャーベット状だった。醤油とワサビをつけて、ロックの泡盛のグラスを傾けながら食べる。実にうまい。

「息子が中国国内にいてねえ。コロナの前は日本に遊びに来たいって言っていたけれど、あたしはずっとこの島にいて、大阪にも東京にも行ったことがないからねえ」

 離島で中国人の奥さんの四方山話を聞きつつふるまわれた怪魚の白身肉は、いろんな意味でなかなかディープな味わいだった。

インガンダルマの刺身、驚くほどの白さ。食べるだけなら自己責任だが、くれぐれも少量にとどめよう。おかわりが欲しかったが遠慮した。

「それでねえ、息子とはたまに微信で話すんだけど、動画や音声はパケット代が高くなるのが怖くてできないのよ。那覇で電話の契約をしたときに細かいことがわからないまま契約したから、通信容量の制限が厳しいみたい。だから、あまり息子や地元の友達と話せなくてね、それでね……」

 江さんはずいぶん話好きらしい。中国人のおばちゃんは他者への心理的な距離感が近い人も多いのだが、そのなかでも彼女はずいぶん人懐っこい人のように思えた。

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