「ご結婚はまだ?」「お子さんは?」――ひと昔前は、20~30代の男女に向けて、ほとんどあいさつ代わりに、このような言葉がかけられていた。結婚・出産をクリアしても安心できない。「一人っ子はかわいそうだから」「次は男の子をお願いね」――とかく世間は口うるさく際限がない。さすがに近年では、個人のデリケートな領域を侵犯する発言として、控えるのが常識になっている。
ところが皇室に関しては、この原則が通用しない。皇族数が十分で後継男子が複数確保されていれば、わざわざ話題にはのぼらないが、現在の状況はそれにはほど遠い。天皇・上皇も含めた皇室の男性メンバーはわずか5人、天皇の次世代にあたる男子は悠仁親王お一人だけだ。
令和3年3月に設置された、いわゆる「安定的な皇位継承についての有識者会議」では、まだ中学生の悠仁親王の結婚問題、男子後継者を得ることができるのかなどについて、有識者や専門家がさまざまに言い立て、その内容が資料や議事録として全国民に公開されたのである。
皇室が直面している危機
このようなことがおこるのも、「皇位は、世襲のものであつて」(日本国憲法)、「皇統に属する男系の男子が、これを継承する」(皇室典範)と定められ、天皇位がはるか昔より血統によって受け継がれているからである。
不妊治療もなく、妊娠・出産のリスクが高い時代に世襲を全うするためには、側室・養子・政略結婚等の方策が講じられてきた。だが側室は今日の日本では、もはや禁忌に近く、養子は皇室典範で否定されており(政治利用や混乱を防ぐため)、一途な恋愛を貫く近年の皇室のご様子では、政略結婚は論外と思える。
有識者会議で意見を聴取された専門家の一人は、「近代医学の粋を尽くして男子出生を」と述べたが、人体実験めいたイメージまでちらつくようでは、皇室に嫁すことの抵抗感は増すばかりだろう。
厳密な世襲は人智を超えたものだ。断絶のリスクをゼロにすることはできない。今日の皇室の危機は、天皇制について議論を尽くすために、天から与えられた機会かもしれない。