私たちは何を守りたいのか
だが社会の趨勢に鑑みれば、晩婚化・少子化の進行は止まらず、皇室も例外ではなかろう。一組の夫婦が5人も6人も子を持つことは望めない。そのような時代に男系男子のみの世襲を唱えていては、どこかで行き詰る可能性が大きい。皇位の行方が不透明となり、個々の皇室メンバーの資質や行状があげつらわれ、興味本位に語られる事態は避けねばなるまい。天皇への信頼が損なわれ、そもそもの前提である世襲が成り立たなくなってしまうからだ。
天皇は「伝統」という言葉とともに語られてきた。だが伝統を守るだけでは、天皇制はとっくに消滅していただろう。伝統は踏まえておくもので(ただし決して忘れないのが天皇制の凄いところなのだ)、あとは時局に応じて変えていけばよろしい。
危機を乗り切るための最善の道は、世襲の方法を可能な限りシンプルにすること、男女の別なく直系・長子を優先として、誕生と同時に継承順位が決まるようにすることに尽きるのではないだろうか。私たちは、伝統を守りたいのか、それとも天皇制を守りたいのか。もちろんどちらも守る必要がないという選択肢もありうる。「男系男子」から踏み出し、前例のない女系天皇の可能性を容認するなら、それは天皇について国民が下す、初めての歴史的決断になるだろう。
もちろん上記の体制を実現するためには、運用上の細かい検討が必要となるだろう。だが、今後永続的に安定をもたらす道筋を定められるか否かは、私たちの決断にかかっている。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。