1ページ目から読む
4/4ページ目

 事実この際は、SNSでの過激な発言で知られる駐大阪中国総領事館の薛剣総領事もツイッター上に日本語で「隣国同士として五輪の相互支援を政府の最高レベルで約束した。東京五輪の時に、中国は最大限の誠意をもって支援し、約束を果たした」と投稿。

「今、日本の番になっているので、当然の事ながら、北京五輪の支援を約束通りにしてほしい。同じ東洋人だから、これぐらいは守らないと困る」と日本に対し、けん制とみられる発言で釘を刺していた。

 しかしながら北京冬季五輪開幕直前には、沖縄県石垣市が尖閣諸島で海洋調査を実施。上記のように中国の新疆ウイグル自治区やチベット、香港での人権侵害に懸念を表明する「人権決議」を衆院は与野党の賛成多数で採択。孔氏にすれば対日世論誘導や外交工作に失敗したかっこうで、長期の一時帰国期間中は「本省からネジを巻かれている」と見られても不思議ではなかった。

ADVERTISEMENT

日本や台湾の“したたかな対中姿勢”

 また大使の長期不在により駐日中国大使館は事実上「臨時代理大使館」に格下げとなったかっこうでもあり、2月21日には、北京の日本大使館の職員が中国当局に一時身柄を拘束される事態も発生。日本の外務省は外交官の不逮捕特権を定めた「ウィーン条約違反は明白だ」として厳重抗議したが、中国側の「意趣返し」とも解釈できた。

 そこにロシアのウクライナ侵攻という変数も加わり、状況は複雑さを増した。

3月30日に日本に戻ったことを外務省が確認した孔鉉佑駐日中国大使=2020年3月27日、東京都千代田区の日本記者クラブで(吉村剛史撮影)

 米紙ニューヨークタイムズは3月はじめ、ロシアからウクライナ侵攻計画を知らされた中国政府の高位関係者が2月はじめにロシア政府に対し、侵攻を北京冬季五輪閉幕後まで遅らせるよう要請していたと報道。その後、秦剛駐米中国大使は米紙ワシントン・ポストでこれを「デマだ」と否定したものの、中国とロシアの協力関係などから、事実だと推測する専門家も多い。

 ウクライナ侵攻は、状況として似たような一面を持つ台湾有事、ひいては日本有事にも波及するとの日本社会の危機感がたかまるなか、駐日中国大使の不在を奇貨とするかのように3月22日には、安倍晋三元総理が台湾の蔡英文総統とオンラインで会談し、台湾のTPP(環太平洋経済連携協定)加盟問題やウクライナ情勢、さらに中国の「一帯一路」構想に対抗する「自由で開かれたインド太平洋戦略」について意見交換を実施している。

 こうした日本や台湾のしたたかな対中姿勢の前で、任国を長期間不在にした孔氏が、今後どのような外交手腕を見せつけ得点をかせぎ、今年後半の党大会で異例の政権3期目を目指す習近平氏に貢献しようとするのかが注目される。