BTSは、世界的にブレイクしたグローバルスターでもある。韓国では国のイメージを高め、デビューから2023年までの10年間で「56兆ウォン(約5兆6000億円、現代経済研究院)」の経済波及効果があると推算された“ソフト・パワー”の象徴だ。国連のキャンペーンにも参加し、国連本部に招かれて演説もした。
最近も「AANHPI(アジア系アメリカ人、ハワイ原住民などを指す)文化遺産継承月間」を締めくくる対談のために米バイデン大統領から招待を受け、ホワイトハウスで演説した姿は全世界で配信された。
冒頭で触れた新聞の情感のこもった見出しからも分かるように、韓国では、並々ならぬ関心を一身に受け、“国の誇り”のような存在となっている。その一方で、そうした立場に置かれた彼らのプレッシャーは想像を超える。
2013年6月13日にデビューし、9周年を迎えてなお全盛期のまっただ中にいる彼らがなぜ今、グループとして立ち止まることを選択したのだろうか。
原因は「燃え尽き」か
韓国の大衆文化分野でベテラン記者として知られる徐炳基『ヘラルド経済』先任記者はこう見る。
「BTSは、他のK-POPアイドルと異なり、自分たちの言葉を持ったアーティストだったため成功した。9年経った今も頂点にいますが、アイドルではなくアーティストたらんとした。K-POPの限界を超えようとしていたのです。
しかし、事務所(HYBE)は、当然ですが、資本の論理で回っていますから、現実的に売り上げを上げなければいけない。そんなK-POPという産業システムの中でずっとやって来て、自分たちの言葉ですら、枠に閉じ込められて、自分たちが伝えたいメッセージと乖離するものになってしまった。疲れてしまったのです。メンタルが燃え尽きてしまったタイミングだったのだと思います」
韓国の音楽市場は規模が小さく、海外デビューは必須だ。そのため、K-POPアイドルは実力やその他すべてが完璧でなければならない。
数年間、デビュー前に練習生としてトレーニングを受けることになるが、海外ではトレーニングを経てデビューしたK-POPアイドルたちは「工場で作られた機械的な製品」と揶揄されることも多い。「そうしたアイドルと違ったのがBTSでしたが、このままではそうなっていきそうな危機感があったのでしょう」(徐記者)。
今回の報道を受け、K-POPシステムの構造的な問題についていくつかの韓国メディアも触れていたが、本格的な議論までに至るかどうか。
ただ、BTSを育てたパン・シヒョクHYBE議長は3年前、米『TIME』誌のインタビューで、「工場型K-POP」への批判について、「アメリカのアーティストは、メジャーレーベルで歌うまで、その数年をアンダーグラウンドで活動することを余儀なくされますが、韓国ではその期間を練習生としてトレーニングを受けます。どちらのシステムがよりすばらしいアーティストを生み出すかについては議論の余地があると思う」(2019年10月)と答えていた。