我々は、辻正浩さんの仕事を通じてネットを見ている。
……というとかなり誇張気味だし、ご自身も「違う」と苦笑されるだろう。だが、辻さんの顧客である大手サイトの数々を合計すると、日本のネット検索のじつに5%以上のサイズになる。それだけ多くの人々が、日々気づかぬうちに辻さんの仕事に接しているのだ。
そんな辻さんの仕事は「SEO(サーチエンジン最適化)」。すごく簡単にいえば、特定のキーワードで検索されたとき、ネット検索の上位に上がってくるようにサイトを調整する仕事である。
SEOはウェブサイトの構築を考える上で重要な要素だが、あまり知られていない領域でもある。辻さんがSEOの世界に入った理由、そして、SEOの現状と検索エンジンの課題などについて聞いた。
「大手家電メーカーより上に自分のサイトが」
今となっては想像できない人の方が多いと思うのだが、1990年代に入るまで、インターネットは大学や研究機関などからしか接続できない場所だった。その後企業、そして家庭へと広がっていき、1990年代半ばにインターネットブームを経て我々の生活インフラになっていく。辻さんがインターネットに最初に触れたのは1990年代前半、インターネットが「大学や研究機関のもの」だった頃だという。
「私がいた大学(北星学園大学)は、日本の大学でもいち早くインターネット接続を学生に開放したところでした。私はその大学で相当早くから使っていたのは事実で、ホームページを作ったりもしました。個人でホームページを持った日本人のトップ100くらいには入っていたんじゃないでしょうか」(辻さん)
初期からインターネットに触れていた人々にとって、ネットは「新しくできた遊び場」のような場所だった。
当時はまだ、今のように精度の高い検索エンジンはなかった。企業も自社のサイトを「とりあえず作ってみた」段階であり、検索で上位に出てくるかどうか、という発想自体がほとんど存在しなかった。
「当時は目的のサイトが見つかるだけで感動していた時代ですが、自分のホームページを作った後で、検索エンジンで上位に出てくるように工夫してみたんですね。もちろん遊びレベルですけど。すると確かに、大手家電メーカーの名前で検索しているのに、自分のサイトがその上に出てくるようになったんです。そういうことが思いのほか簡単にできたので単純に面白かったんですよ。そういう意味で当時の検索エンジンは、私にとって“おもちゃ”みたいなものでした」(辻さん)