ネームとはコマを割り、台詞とラフな絵を入れた下書き原稿。通常、マンガ家はまずネームを書き、編集者のOKをもらってからペン入れを始める。ある意味ではペン入れ以上にクリエイティブで、「マンガを描く」うえで最も重要な工程といっても過言ではない。
梶原一騎や小池一夫が活躍した昭和の時代には、原作者は小説やシナリオの形式で書いていたが、最近はネームで原作を書く者が主流になっているという。絵を入れるマンガ家もその方が助かるし、編集者も文字だけの原稿よりイメージしやすいだろう。
マンガ編集者にとって、ネームは生原稿以上に身近なものだ。ネームを正確に読み取り、そこから完成原稿をリアルに想像することで作品の良し悪しを判断できる。
しかし、マンガ家が書いたネームを「読む」ことと「自分で書く」ことは大きく異なる。ごく簡単なものとはいえ、曲がりなりにもコマを割って「絵」を描かなければならない。台詞を入れるということは、すなわち原作を書くということでもある。マンガ編集者なら書けて当たり前、というものでもないだろう。
「とてもマンガ家さんをリスペクトする人なんです」
栗田編集長はこう続ける。
「つたないながらも自分でネームが切れるようになると、“ネームを作る”とはどういうことか、描き手の角度からわかるようになりました。樹林さんはとてもマンガ家さんをリスペクトする人なんです。絵が描けない編集者が上からものを言っても反感を買う。編集者もネームを書いて、同じ土俵に立って一緒に考えることで、マンガ家さんも素直に意見を聞いてくれるんだというわけです」
令和に入って本数は減ったが、前述したように2022年現在も樹林は「マガジン」に連載を持っている。もちろん原作者として優秀だからに違いないが、栗田編集長によると「後進の編集者に対する教師役として買っているところもある」という。
「最近はキャラクター作りが先行するので、マンガ家さんも編集者もストーリーを緻密に組み立てられないところがある。樹林さんに原作を頼むと、それを現場で教えてもらえるわけですよ」