入居可能期間を「原則3年間」と定めている理由
さらに書類審査のためには、エントリーシートと作品データの提出が必須。書類審査を通過すると、今度は2回の面接が待ち受けている。志望者が熱意を注がないと入居できない仕組みだ。
入居対象年齢は18歳~35歳で、入居可能期間は原則3年間。“期限”を設定している理由を、菊池さんは叱咤激励の思いをこめながらこう話す。
「最初の1年間は手探りをしながらも、自分の技術を磨く。2年目は、たくわえた経験値を伸ばしていく時期。3年目はさらなるステップアップと自立と思考をする時期。覚悟を決め時間を区切って集中するためにも、3年間という時間はちょうど良い期間です。
それに厳しい話ですけど、夢だけを見続けてダラダラと時間をかけるのは、その方の人生において決して良いことではありません。入居者は基本的に3年間で自分の今後の人生に向き合って欲しいと考えています。
とはいえ、3年が経過したら必ず退去というわけでもありません。3年目に入る前に継続入居するかどうかを話し合う『ステージ面談』というものを実施しています。ステージ面談では、更新後の漫画家としての事業計画を見たうえで、3年経過後の継続入居を判断しています。漫画家として歩んでいくということは、個人事業主として歩んでいくことでもあるので、今後の事業計画が明確であるか、それが自分でプレゼンテーションできるかという点も見ています」
ひとりでも多くの漫画家の卵が夢を叶えてほしい
まるでメンターのようなバックサポート体制を整えている一方で、普段は入居者のプライベートに介入しすぎないように、自主性を大事にしているという。もし入居者同士でトラブルや喧嘩が起きたとしても、まずは当事者間での問題解決を促す。
それにしても、菊池さんはなぜこれほどまで手厚く漫画家の卵たちをサポートし、事業を推進しようとしているのだろうか。そこには、漫画家を目指す者たちに対する、彼女なりの思いがある。
「実は私も漫画家を志して、専門学校に通いながら原稿執筆に明け暮れていた時期がありました。そのときに自分が困っていたことや望んでいたことを、『多摩トキワソウ団地』で実現したいと思っているのです。
漫画家は夢のある仕事で、日本の大切なカルチャー。同じ経験をしたことがあるからこそ、居住者のことをより理解し、サポートできると思っています。『多摩トキワソウ団地』からひとりでも多く自分の夢を叶えてほしいですし、そのために陰ながら支えていきたいですね」(菊池さん)
撮影=三宅史郎/文藝春秋