検察が再捜査を決定すると、元部下のMがチェーンソーで自殺
さらに警察が密室と判断したラブホの部屋は、ドアが開閉するとフロントでブザーがなる仕組みだったが、センサー部分に薄い磁石をあてると、開いていても、閉じている状態と認識されてブザーはならなかった。また、ホテル廊下には監視カメラがあったものの録画はされておらず、出入りの実態はわからなかった。さらに、ホテルの内外をつなぐ非常ドアの鍵は常に開いている状態だった。その後、この鑑定結果をAさんの親から聞いた捜査当局は、再捜査することを決めたという。
「検察が再捜査を決めました。するとすぐに、Mが自殺してしまったんです。包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の正面から動脈まで切断するという壮絶な死に方でした。調査会社による調査では、Mは精神的に不安定になっていたのか、ウェットスーツで家を出たのにすぐに帰宅したり、耳栓をつけて外出したりと、奇行が多く確認されていました。Mの遺書には『私は罰せられなければならない人間です』と書かれていましたが、真相は闇の中です」
山崎さんは「このようなケースはほとんどない」と前置きしながらも、「不審死した遺体を調べる司法解剖が行われる割合が、諸外国と比べて極端に低い日本では、事件を見逃してしまう可能性は高いのではないか」とも指摘する。
警察行政ではできない鑑定をやる…制約のない民間ならではの強み
「検死官の人数の問題など、日本の警察行政では致し方ないのかもしれないですが、司法解剖に限らず警察にはさまざまな制約があるんです。例えば、たばこの吸い殻のDNA鑑定は、〈吸い口の先っぽから5ミリ程度までしか調べない〉といったルールがあります。もちろん検出されるものの多くが先端部分からなので、この範囲から出ないと採取できないことが多いのは事実です。ですが、うちは先端から検出されなければもっと先まで調べて、15ミリでもやってみます。それで検出されるケースはある。これは、制約のない民間ならではの強みと言えるでしょう。
だから、そういった事情を知っている刑事が、警察本部の科捜研(科学捜査研究所)では検出されなかった鑑定を依頼してくることがあります。彼らの執念はすごいですよ。だからその強い思いに応えなければいけないとの一心で、うちでは見つかるまでやります。それでうまくいくケースもあったので、警察当局も、最近は杓子定規ではなくなってきてはいるとは思いますね」
時として捜査当局が見過ごした証拠をあぶり出す民間鑑定会社。その専門的な知見に基づく鑑定は我々の生活に直接根ざす分野にも広がっている。(#3に続く)