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地位もお金もあるIT起業家はなぜ“お坊さん”になったのか? 小遣いは「生涯108万円」、妻は「ふざけんな!」と激怒…

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小野裕史さんインタビュー#1

2023/02/25
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頭を剃られている間、幸福感に包まれた

小野 それで、ナグプールに戻って佐々井さんに「お坊さんにさせてください」と打ち明け、翌日、改宗式の前に頭を剃ることにしました。

年に一度、行われる大改宗式にはインド全土から100万人もの人がナグプールを訪れる(2015年撮影・白石氏提供)

 頭を剃られている間、ものすごい幸福感に包まれるんですよ(笑)。あらゆる欲から解き放たれた気分というか。それで髪とともに、過去のキャリアをすべて捨てました。後で知ったんですが、仏教では「自分を飾らない」というのがひとつの教えで、頭を丸めることでその覚悟をするんです。白石さんも一度、剃ったらいいですよ。

――絶対、嫌です(笑)。でも、佐々井さんはどうして小野さんに得度をすすめたのでしょうか? 

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小野 うーん、どうしてだろう? 日本の若者が来たら、誰でもすすめているんじゃないんですか?

――そうでもないと思います。私が取材で1か月ほど滞在している時、たまに若者が訪ねてきましたが、10回も「お坊さんになれ」と言ったりしないですよ。

小野 佐々井さんは、僕が楽しそうにしていても、資本主義社会での葛藤や疑問を持っていることを見抜いたのかもしれませんね。これも何かの縁、導きだと思って得度を決意したんです。

小野さん(左)と聞き手の白石さん

“前世”のビジネスやマラソンなどのブログは全部消した

――それで、衣を着たんですね?

小野 ええ、「お金も家族も何も持たない」ことがインドのお坊さんなのですが、唯一、身に着けているのが、このインドの袈裟なんです。この袈裟は広げると一枚の布になっていて、本来は、捨て置かれてるような価値の無い布を縫い合わせたもの。日本の仏教とは違って、インドのお坊さんは本当にお金や食べ物などの「供養」だけで生活しています。だから、人々の支持を得られないお坊さんは供養が集まらず生きていくことができない。

――佐々井さんはよく「自分の命は民衆が握っている」と言っていましたね。

小野 それで頭を剃って衣を着たら、佐々井さんから「龍光」という名前をいただきました。その時からもう本名の「裕史」は前世になったんです。インドから帰国して、「裕史」の頃のビジネスやマラソンなどのブログは全部消して、龍光として生きていく覚悟を決めました。

――そんなにさっぱり華麗な過去を断捨離できるものでしょうか?

小野 不思議と何も迷いはなかったですね。それで改宗式では、他の新人坊主とともに、さっそく仕事をさせていただきました。改宗宣誓書に何万枚もナンバリングしていく事務作業をしたり、疲れてぐったりした佐々井さんの代わりにイギリスのBBCの取材を受けたり。

 あと、尼さんから手招きされて、「そこの新人坊主、舞台の最前列に座っておけ」と。日本人僧侶は肌が白くて目立つので、客寄せパンダにすれば、お布施が増えるだろう(笑)って。汗をダラダラと流しながら口パクでお経を唱えてました。