お笑いが好きすぎるあまり、芸人をあきらめた男、蓮見翔。しかしその思いを簡単には捨てきれず、仲間を集めて、大学の教室でひっそりとコントを始める。大教室の蛍光灯の下で生まれたダウ90000のコントは、人間の現実をよりリアルに照らし出す。「ダウは賞レース向きではない」と語る蓮見が、それでもキングオブコントにこだわる理由。さまよえる演劇界と飲み屋の共通点。昨年末で全員バイト卒業、本気のダウ90000は大衆に刺さることができるのか。(全2回の2回目/前編から続く)
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コント「元カノに結婚するって言われた」がウケた
――蓮見さんはどういう「面白さ」を自分では表現したいと思っているのでしょうか。
蓮見 コントでいうと……何だろうな。でも、人間がそのまんましゃべってる言葉でバーンとウケるポイントが作れてたら、それはすごくいいコントだなとは思いますね。僕はもともと天竺鼠さんが大好きで、本当はああいうものを作りたいけど、それは作れないなっていうのは何回か書いててすぐに分かった。だったら逆のリアルを突き詰めようと。
天竺鼠さんの場合は、非現実に飛べば飛ぶほどそのセンスが面白さに直結していく感じがありますけど、その逆の方向に一生懸命走ってる人が実はあんまり思いつかなかった。ふかわりょうさんとかはそうですよね。そっちで思いっきりコントをやってる若者はあんまりいないかなと思って、始めたところはあります。
――日常の……人間の面白さ。
蓮見 一番面白いですね。最初「元カノに結婚するって言われた」という、それだけのことをそのままコントにしたら、かなりウケたんですよ。で、「そうか、こういうのありなのか」と思って作り始めてから、よりリアルをえぐれるようにはなったかもしれません。
恋愛ネタはやりづらくなった
――リアルなコントって、たとえば自らのジェンダー観も色濃く出てしまいそうですが、そういう怖さはないですか?
蓮見 あります、あります。たとえば「男1、女2の3人組で10年仲良いのなんかあり得ねえだろ」っていうコントがあるんですけど、俺自身は別にあり得るとも思ってるし、でもあり得ないって思う人もいるし。
でも、あのコントの中で俺が「あり得ない」側にいたら、現実の俺も「あり得ないと思ってる」んだと、捉える人もいるじゃないですか。そこはめんどくさいです。いやいや、コントだから。思いっきりジェンダーを主題にしたコントで、俺がすごく偏ったジェンダーの意識を持ってたら、それは叩いてもらって構わないんですけど……。
――恋愛ネタは昔よりやりづらくなっていますか?
蓮見 やりづらいですね。やりづらいから、ただ幸せな空間を作るようにしてますね。
――リアルとの「僅差」や「大差」に笑いが生まれるのではないかと思っていて、だからこそどれくらいリアルを俯瞰で見てるのか、大事になると思うんですよね。でも、蓮見さんは「ああ、こういう人いるね」とか「こういうことあるよね」をすくい取るのがすごくお上手で。