2009年に私が業界最大手の会社に入社した頃は、幸か不幸かハードな長時間労働が健在で、上司から一挙一動のレベルで徹底的にフィードバックをもらうことができました。ありとあらゆるタイプの失敗で地雷を踏み、上司や先輩たちにしごかれ、自分の不甲斐なさに泣くこともありました。
でもそんな中で掴んだスキルは、「自分はここまでならやれる」という絶対的な自信になり、逆境のなかでも己のメンタルを守る盾となってくれた。
12年間務めたコンサルティング会社では、最後の数年シニアマネージャーを務めましたが、辞めるにあたって、最後の部下だった後輩に向けて、業界を生き残るための道標を残せないかと考えて「マニュアル化」したのが本書です。昔のように現場の高負荷なトレーニングで仕事が鍛えられる機会もなければ、コロナ以降、先輩たちの仕事を自然と盗めるオフィス環境を奪われてしまった後輩に向けて、暗黙のサバイバル術をできるだけ言語化して残したいと思ったんです。
「死んでしまうかもしれん」と思いながら働いていた新人時代
――当時はそんなに厳しい環境だったんですか。
メン獄 厳しいけれど面白かったですね。社内では、ウォール街から来たかのようなスーツを着た超絶優秀なエリートから、炎上案件ばかり救ってまわる火事場の英霊のような巨人、文字通り海外の軍隊出身の猛者まで、個性豊かな上司や先輩たちがたくさんいました。宝塚の女優さんみたいにパキッと決めたある女性役員は、対面するととって食われるんじゃないかと思うくらい緊張感のあるオーラを放っていた(笑)。
就職活動中に見ていた社会人は少しくたびれた、どこか諦めている人が多かった中で、コンサルティング会社の人は違った。ちょっと怖いけど、こういう人たちの下でなら、自分の嫌いなくたびれた大人にならずに済むんじゃないかと思ったんですね。
仕事は本当に忙しかった。忙しすぎて、あまり記憶がないほど。家に帰れる日もあまりなく、明け方スタバで仮眠してからそのまま職場に戻るような日もありました。まわりを見ても家に帰れない先輩たちが段ボールの上で寝転がっていたり、公園の給水機で頭を洗っているような状態でしたね。
クライアントからの突発的な依頼が、金曜日にきたりするんですよ。「土日も込みで、最速いつできますか?」みたいに。「死んでしまうかもしれん」とずっと思いながら働いていたのは事実です(笑)。でも、もともと普通になりたくなくて入った会社で、特異な状況を体験できたので、本望だったとも言えます。