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事実上の完全雇用社会

 2015年には、アベノミクス「新三本の矢」の一つとして政府は「名目GDP600兆円の実現」という高い目標を示しましたが、コロナショック前まではゆっくりとした足取りながらも目標達成に向かっていました。人口減少、高齢化、世界経済の不安定化のなか、2019年の名目GDPは557.9兆円になり、5年で39兆円増えました。

 2018年以降、失業率は事実上の完全雇用と言える歴史的低水準(2.2~2.5%)にありました。雇用者報酬(簡単に言うと人件費総額)は順調に伸張してきました。2021年のGDPは、急激な落ち込みがあった2020年から1.9%回復し、2023年も1%台後半の伸びが期待されています。

 一方、OECD(経済協力開発機構)諸国全体では2010年代はほぼ年率3~4%の成長が続いていました。この間の日本の実質成長率は平均すると年率1%に達していませんので、世界と日本の差は非常に大きく開いたことになります。

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 実感を持つために例えてみると、あなたがGDP1兆円の国の王様として年率1%成長で国家運営を続けると、10年後にはGDP1.1兆円になります。一方、年率3.5%で成長を続けた場合は10年後に1.4兆円になります。20年後には1.2兆円と2兆円にその差が広がります。

 1%と3.5%の差を放置していると勝敗がはっきり見えてきます。日本の1人当たりGDPはOECD38か国中20位(2021年)です。ドル換算のため為替の影響による目減りがあるのですが、2012年は10位でしたので、停滞感は明白です。製造業の賃金は日本が100とするとドイツは183、フランスは151、アメリカは131です(2019年/購買力平価換算)。日本人サラリーマンが1000万円を2年かけて稼ぐのに対し、ドイツ人サラリーマンは1年2か月で稼ぐということになります。

 日本経済は厳しい環境のなかで緩やかながら成長をしてきました。それぞれの働き手はスキルを磨き、企業経営者は予算制約に苦しみながら新規事業開拓に取り組んできたと思います。それでも主要国のなかでは負け組になっています。そして、これから一層、日本では働き手の努力が報われない時代になります。