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 デザートのクレーム・ブリュレは、シェフが2年前に発見した明治時代のレシピ「プディング・ド・金谷」を再現したという。古文書を読み解くように調べてみると、プリンの中にキリッシュ(キルシュ=サクランボの蒸留酒)やバニラ水(バニラエッセンスと思われる)が入っていた。

 また、当時としてはとても珍しい「フィンガービスケット」と「アンジェリカの砂糖漬け」が添えられていた。アンジェリカはセリ科の植物で、和名はセイヨウトウキ。その砂糖漬けは明治29年にはなかなか手に入らなかったもので、金谷ホテルが食材について外国と取引していた証ではないかとシェフは語る。

「別館ROYAL HOUSE」として現代の価値観に合う贅沢な空間にリニューアル

 明治29年には、アテネで第1回夏季オリンピックが開催された。ヘンリー・フォードが四輪自動車の試作に成功した。日本では三陸大津波や信濃川堤防決壊、陸羽地震と災害に見舞われた年でもあったけれども、東海道線の新橋~神戸間に急行列車が誕生するなど活気のある時代だったようだ。

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 さて、150周年記念事業でもっとも大きなトピックは別館のリニューアルだ。1935(昭和10)年に建てられた3階建てを修繕し、エレベーターを設置したほか、一部の客室を拡張し、銅板の屋根を葺き替えた。建設当時の趣を残しつつ、「別館ROYAL HOUSE」として現代の価値観に合う贅沢な空間を提供するという。

別館「ROYAL HOUSE」はスイートルーム2室、コーナーツインルームが1室、デラックスルームが19室。洋室ながら和のインテリア。「サムライ ハウス」の伝統を受け継ぐ

 リニューアル開館日は7月15日(土)。奇しくも「スペーシアX」の運行開始日だ。いや偶然ではない。「スペーシアX」の運行開始日を知り、改築工事の日程、工程を十分に検討した結果「せっかくだから同時にオープンしてお祝いを盛り上げよう」となったそうだ。日光の人々の「スペーシアX」への期待を象徴するようなエピソードだ。

浅草駅に入線する「スペーシアX」 ©佐藤亘/文藝春秋

「スペーシアX」で歴代将軍も羨むような旅ができそう

 伝統ある金谷ホテルは、歴史の教科書の人物がたくさん宿泊しており、建物は国の登録有形文化財、近代化産業遺産である。そんな場所に泊まるなんて畏れ多い気がする。

 しかし、金谷ホテルは今も当時と変わらぬおもてなしで宿泊客を迎えてくれる。明治時代の開業時は武家屋敷。西洋文化になろうと背伸びすることなく、あるがままに世界の要人を受け入れてきた。その佇まいは将軍も庶民も参拝できた東照宮に通じる。その敬意を胸に、築き上げた格式に合わせて、ちょっと気取って訪れたい。

「スペーシアX」のコックピットラウンジや個室で日光へ。金谷ホテルで150周年記念ランチを楽しみ、ゆったりとした時間を過ごしつつ東照宮を参詣する。歴代将軍も羨むような旅ができそうだ。