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《腰痛を克服》吉田正尚を引退危機から救った室伏流「奇跡のトレーニング」とは?

2023/08/25
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 一通の手紙が届いたのは、16年11月のことでした。オリックス球団の封筒を開けると、1枚の便箋に、手書きの文字がびっしり並んでいました。それが、吉田選手からの手紙でした。

インタビューに応じる室伏氏 ©文藝春秋

 普段書かない手紙を一生懸命書いてくれたんだなと一目で分かる、不器用ながら丁寧な内容で、熱意が伝わってきました。

 手紙には、1年目から故障続きで力を出し切れずに悩んでいることが綴られていて、具体的に「トレーニング方法を一度見てもらいたい」「少しでも自分の野球に生かしたい」「なんでも吸収したい」という切実な気持ちが書かれていました。

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 プロ1年目から活躍し、将来を嘱望されていた吉田選手ですが、シーズン途中に腰椎椎間板症を発症、一時は一軍登録を抹消されました。復帰してシーズンを終えたものの、秋季キャンプでは筋疲労性腰痛で離脱してしまいます。手紙を書いてくれたのはちょうどその頃です。大変な苦労をしているんだなと思いました。でも、手紙からは、その逆境を「なんとか乗り越えたい」という強い気持ちを感じました。

 インターネットで私のトレーニング動画を見つけ、知り合いを頼って手紙を託したそうです。子供のころ、「スポーツマンNo.1決定戦」というTBSの番組に出場していた私の姿を観て、親しみを持ってくれていたのも一因だったとか。

「うまくなりたい」という思いはプロなら誰しも持っているものです。しかし実際に手紙を出すという行動に移した彼の姿勢からは、「本当に学びたい」という強い向上心を感じました。あとで聞いた話では、何度も書き直し、読み直して、やっとの思いで完成させた手紙だったそうです。ぜひお会いしましょうと、ほとんど二つ返事でお答えしました。

悲鳴を上げていた吉田の腰部

 吉田選手の場合は、胸が開いて腰椎が伸展し腰部に負担がかかる、いわゆる「反り腰」の典型的な姿勢でした。腰椎が過剰に反った状態でバットを振り続ける、つまり身体の「回旋」を続けると、腰部に疲労が蓄積します。何百回、何千回とバットを懸命に振り続けることで、吉田選手の腰部は悲鳴を上げていたのです。

 私たちの身体には、約650種類の筋肉があります。それほどたくさんある筋肉のうち、実際に使われているのは、ほんの一部。同じ姿勢で同じ動作を続けていると、よく使われる筋肉は疲労する一方、ほとんど使われない筋肉は萎縮し退化して、身体のバランスはどんどん崩れてしまうのです。

 一般の方でもアスリートでも、疲れない身体、怪我しにくい身体を作るためには、全身をバランスよく使った、自然な人間本来の動きを取り戻すことが非常に重要なのです。