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バンド一番の大人は…

 ギターの石森敏行は、舞台で暴れまくるミヤジを牛若丸とするならば、武蔵坊弁慶のような人である。絶対腰によくないであろうガニ股奏法を、素晴らしい脚力と腹筋をもって続けている。演奏中、テンションが上がった宮本浩次にタンクトップを破られようが、頭を撫でられようが動じずギターを弾き続ける姿は、悟りの境地を感じるほどだ。

 そしてなにより、彼のX(Twitter)に掲載されている写真と短いコメントが、詩的でとてもいい。被写体はメンバーのほか、壁とか空とか、鳥とか虫とか、小さな四角の風景の中に、小さな日常の気づきと囁きがポン、と置いてある。「つぶやき」という言葉の意味は、本来こういうものだったよな、と思い出すような控えめさとやさしさがある。

 ドラムの冨永義之は、まさに楽器の立ち位置の通り、エレカシメンバーの背中を包み込むような人である。宮本浩次も、「トミは一番の大人」(「MUSICA」2008年4月号)と語っている。

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 アルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』収録の「土手」という楽曲は、宮本の音域の広さと純粋さを余すところなく伝えるような名曲。彼の作詞作曲で、持ち前の包容力、時々激情が、ぶわりと草や土の香りと共に漂ってくる。ドラムも、静かでやさしい佇まいとは打って変わって、鬼気迫るような重いサウンドで、宮本の狂気と堂々対峙する。

「THE ELEPHANT KASHIMASHI II」

「できないからって全力でやることを止めたら、本当に終わりだからね。そうなったら、あんなに頑張ってるミヤジの後ろでドラムを叩く資格、ないからね」(「音楽と人」2018年7月号)

 思えば、『劇場版エレファントカシマシ(ディレクターズカット)』のインタビューの、彼のあの苦しくなるような沈黙は、全力だからこそであろう。ちなみに『35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO』で披露した「待つ男」のドラムもすさまじい。

『劇場版エレファントカシマシ ディレクターズカット』(DVD)

 そして、私が「エレカシの佐藤浩市」と勝手に名付けている、ベースの高緑成治は、とても静かで粋な佇まいを持っている。ベースの音色はもちろんなのだが、存在感そのものが安定感を漂わせ、エレカシというバンドを支えている人である。宮本浩次とのコンビ名もズバリ「ダンディーブラザーズ」。ところが、そんな彼が紡ぎ出すのは、お腹から元気が出るような、とても明るい詞と曲だ。私がエレカシに誘われた「星の降るような夜に」、そしてアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』収録の「せいので飛び出せ!」は、どちらも彼と宮本の共作。心がジャンプするような元気が出る楽曲で、鼻歌との相性は最高だ。