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 将棋は好手で勝つゲームではなく、いかに悪手を指さないかで差がつくゲームである。ミスは難解な局面で起こるが、将棋は終盤になると「最善手以外は負け」というような難しい局面が頻出するのだから、持ち時間が少なくなる終盤では、ある程度のミスが出るのは仕方がないとも言える。

形勢が悪くなっても、粘り強く戦って逆転に漕ぎつける

 ところが、藤井さんはそのミスが圧倒的に少ない。

「藤井曲線」という言葉は、藤井さんが徐々にリードを広げて評価値を上げていくグラフの形を言い表したものだが、ミスが少ないからこそ、勝利に向かって揺るぎなく淀みない美しい曲線が描ける。

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 また形勢が良いときだけでなく、悪いときもミスをしないことは重要だ。プロは大差になれば間違えないが、微差でついていければ何が起こるかわからないからだ。

 藤井さんは悪くなっても、粘り強く戦って逆転に漕ぎつける。だがそれは、しばしば“神の一手”と評されるような何か特別な手を指しているわけでも、まして一発逆転の秘術に長けているからでもない。一手一手、深く集中しながら考え続けて、精度の高い手を指し続けているからにほかならない。藤井さん自身も、著書の中でそう認めている。

《秒読みで残り時間が少ないときでも、本当に集中していれば、最善に近い手を導き出せるような感覚はあります》(『考えて、考えて、考える』より)

 藤井さんには多くの武器があるが、こうした集中力の高さも強さの源泉であると私は思っている。

 

常識にとらわれない

 藤井さんには、中盤で選択肢がいくつかある状況では、見た目は指しにくくても効果的な手であれば躊躇なく指す、という特徴がある。

 最近は、従来の常識では考えられないような手が有効だと判明することが増えた。現在のAI活用法としては、自分の価値観とマッチする指し方を掘り下げ、理解の枠外にあるような手は避けるのが多くの棋士の考え方ではないかと思う。

 その中で藤井さんは、棋力向上を自身最大の目標として掲げていることもあり、AIの判断基準を取り入れて自分の力にしようとしている。