996年正月、藤原伊周・隆家兄弟と花山院との間で、従者同士が闘乱に及び死傷者を出す事件、「長徳の変」が起こった。歴史評論家の香原斗志さんは「伊周と隆家は配流、2人の兄をかくまったことで皇后・定子の地位も落ちた。政敵の自滅により藤原道長の政権基盤は盤石になった」という――。

写真=時事通信フォト 2020年2月26日、ミュージカル『ミス・サイゴン』制作発表記者会見に臨む高畑充希さん - 写真=時事通信フォト

なぜ伊周と隆家は法皇に矢を放ったのか

「矢を射かけられたのは花山院。長徳の変のはじまりである」という、伊東敏恵アナウンサーの語りで終わった。NHK大河ドラマ「光る君へ」の第19回「放たれた矢」(5月12日放送)。

藤原道長(柄本佑)が右大臣に任命され、公卿のトップの座に就くと、内大臣のまま据え置かれた藤原伊周(三浦翔平)と、その弟で中納言の隆家(竜星涼)は、道長への反目を強めていった。そして、ある夜が訪れた。

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伊周はこのころ、太政大臣だった故藤原為光(阪田マサノブ)の次男、斉信(金田哲)の異母妹、光子(竹内夢)のもとに通っていた。ところが、その夜は為光邸の前に見事な牛車が停まっていたので、伊周は早々に退散した

帰宅した兄に隆家が「あれ? 女のところに行ったんじゃないのか? ふられたの? 男が来ていたとか?」と問いかけると、伊周は酒をあおりながら、「まさかあいつに裏切られるとは思わなかった」と泣き顔である。そこで隆家は、「よし、懲らしめてやろう」と誘いかけた。懲らしめる対象は、光子のもとに来ていた男である。

伊周は「関白になれなかったゆえ、女まで俺を軽んじるのだ」と自虐的なので、隆家は「行こう。だれだか、たしかめるだけでもいい」と誘いかけ、2人は馬で為光邸に赴いた。すると帰ろうとする男の姿があったので、隆家は矢を放った。

男がすんでのところで矢を逃れて尻もちをつくと、邸内から斉信がかけつけ、「院! いかがされました、院!」と、慌てて声をかけた。「院」とはかつて出家して天皇の座を降りた花山法皇(本郷奏多)だったのである。