「こんなところでやめてください!」――ディズニーランドの敷地内で、お客同士のケンカを目撃してしまった従業員。60を過ぎながら「キャストとして見て見ぬふりをするわけにはいかない」と思った笠原一郎氏はどう対処したのか……? 8年間、ディズニーランドのキャストとして働いた笠原氏による『ディズニーキャストざわざわ日記――“夢の国”にも☓☓☓☓ご指示のとおり掃除します』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

写真はイメージ ©getty

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ディズニーランドで「殴り合い」が起きた日

「スプラッシュ・マウンテン」のQライン(ゲストの列)がちょうど屋外から屋内に入るあたりで騒ぎ声がする。

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 そのとき、私はクリッターカントリーのスイーパー担当だった。

 何かが起こっていると思い、現場に急行した。

 騒ぎのもとは「スプラッシュ・マウンテン」の列に並んでいたゲストだった。

 彼らは男性ばかり4~5名で来園した友人同士のようだった。

 髪の毛を茶色に染めた男性と、丸坊主の男性とが胸倉をつかみあい、互いに左右に揺さぶっている。友人と思われる男性が「やめろ、やめろ」と言いながら止めようとしているものの、手をかざして笑っているだけで、本気で引き剝がそうという感じではない。

 そのうち茶髪の男性が丸坊主の男性の顔面を殴りつけ、それに対抗して丸坊主の男性も殴り返した。

 背格好は2人とも170センチほどで特別大柄というわけでもなかったが、なにしろ若くて血気盛んな年ごろである。

 私は生まれてこの方、人を殴ったこともなければ、つかみ合いのケンカをしたこともない平和主義者である。まして60すぎの老体としては少々怖かったが、キャストとして見て見ぬふりをするわけにはいかない。

 意を決して、殴り合っている2人のあいだに割って入った。第三者のキャストの介入をきっかけに友人たちもそれぞれを制するようにあいだに入ってくれた。

「ふざけんじゃねえ!」

「てめえが悪りんだろう!」

 罵り合いは収まらなかったが、それでも2人を引き離すことには成功した。

「こんなところでやめてください!」