林檎 「喰われる」と聞いて勘違いする人も多いのだが、実は「キャラクターに人格を乗っ取られる」というケースはほとんどないと思う。むしろ、ファンが求めるキャラクター像を上手く演じられるようになったからこそ、普段の自分とのギャップが大きくなって、「自分はみんなが好きだと言ってくれるような人間じゃないのに」とか「私がやりたいものはこれじゃないのに、私はこうじゃないのに」とか「配信上のキャラクターのような人間にならなければ価値がない」とか強迫観念に悩むケースが多数派だ。
動画よりも配信、友達のような距離感もリスクは高め
――大手の男性VTuberさんが「彼女ヅラしないでくれ」「母親ヅラしないでくれ」と、一定の人格を期待する女性ファンに反発して活動休止されたこともありましたね。
林檎 あれは有名人と親密であるとファンが思い込んでしまうパラソーシャル問題において痛ましいできごとだった。近年はVTuberの活動が、動画からリアルタイムかつ長時間が前提の配信メインになってきているし、友達のような距離感でファンと接する者も増えたので、その影響は大きいと感じている。
――配信や友達のような距離感だと「喰われ」やすくなる?
林檎 もっと喰われやすいと見られる活動スタイルは実際あるものの、動画と違って配信はリアルタイムで交流するので、どうしてもメンタルへの負荷は大きくなる。友達のような距離感も、自分自身との境目が曖昧になりやすかったり、VTuber自身もファンも距離感を見誤りやすい難点があり、「喰われる」率は高いように感じている。
ただ設定を細かく決め込んで演じるロールプレイ型よりも参入ハードルが低いし、ファンがつきやすいのも事実なのでVTuber全体でみるとほぼ一番多いスタイルだ。それが「喰われ」のリスクにもつながっているのが友達のように話すタイプの難しいところだな。
「こんな人間はいない」と思ったら…
――ロールプレイタイプ、友達タイプについて簡単に教えてもらえますか。
林檎 厳密に分けるのは難しいのだが、ロールプレイ型というのは簡単に言えば「日常にいない喋り方をするVTuber」だと思ってもらえばいい。有名なところでは特徴的なお嬢様を演じるスタイルや電脳世界にルーツを持つというような方が入る……と思う。
――思う、なのですか?
林檎 というのも、傍から見てそのキャラクターの後ろに「全く人格が違う中の人」がいると断定することはできないのだ。それは真実はわからないからできないという話であると同時に、「こんな人間はいないからさすがにロールプレイだろう」と思っていると、中から本当にそのままの人格が出てくるケースは意外とあるからだ。人間やVTuberの多様性をなめてはいけない、人間の可能性は本当に無限大だからな。
――(笑)。友達タイプはいかがでしょう。