汚水槽の中身を下水道に排出するために電力が必要

タワマンの場合、建物の下部にトイレの汚水などをいったん貯める汚水槽が設置されている。その汚水槽にたまった屎尿類を公共汚水用下水道に排出するためには電力が必要なのだ。電力供給が不可能になった件の武蔵小杉のタワマンでは、地下の汚水槽から公共下水道への排出が不可能となった。

汚水槽がいっぱいになっているのに上層階で水洗トイレを流すと、下層階住戸のトイレに逆流してしまう。

だから、電気機能が麻痺したその武蔵小杉のマンションでは、緊急の館内放送でトイレの使用中止を伝えたという。そして、各住戸には簡易トイレが配られた。つまり、排せつ物を住戸内でいったん保管する必要があった。

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ちなみに、水道も使えない状況なので、簡易トイレの使用はかなり不衛生な危険が伴う。

多くの人はそれを嫌ってホテルや親戚の家へと避難したらしい。ただ、そういうことができない事情の方も少なくなかったようだ。

30階あたりに住む人が、1階に設置された臨時のトイレを利用するために毎日何回も往復した、という体験談も語られている。

管理組合の対応にも問題があったと考えられる

さらに、このタワマンの管理組合のあまり賢明でない対応にも問題があったと私は考える。

この事象が発生した直後から、私のところには様々なメディアから問い合わせや取材の依頼があった。そこで分かったことは、管理組合が住民に箝口令を敷き、「メディアの取材には一切応じるな」と命じたのだ。不都合なことは一切隠蔽する、という専制国家の手法を採用してしまったのだ。

しかし、日本のような国で事実を隠蔽し続けることは不可能に近い。その対応に反発したメディアはこの被災した武蔵小杉タワマンに対して冷ややかな報道を流し続けた。記者たちも人間である。「敷地には一歩も入るな」「お前ら、出ていけ」と言われれば、気分がよくないのも当然だろう。

結果、このタワマンはSNSなどで揶揄され続けたようだ。私が知る限り、現在は資産価値への悪影響は払拭されているが、被災後1~2年程度は中古市場での取引が著しく不活性化していた。