立地環境のよさ、コレクションの質、企画のセンスともに突出し、関東を代表する名美術館として知られたDIC川村記念美術館が、2025年4月から休館となる。現存地で最後のコレクション展示、「DIC川村記念美術館1990-2025 作品、建築、自然」が始まっている。

DIC川村記念美術館外観 撮影:渡邉修

約180点のコレクションを展示

 1990年にDIC、当時は大日本インキ化学工業の総合研究所敷地内につくられたのが同館だ。千葉県佐倉市、北総台地の一角に位置し、林あり池ありの敷地面積は3万坪に及ぶ。春の桜をはじめアジサイ、スイレン、モミジ、ツツジ……。四季折々の草花が来訪者の眼を楽しませてきた。

 美術館としての中身も、環境に劣らず充実している。20世紀美術を中心とした一大コレクションを、広々とした展示空間で常時観ることができるのだ。

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 館内すべての展示室を用いて約180点のコレクション展示をおこなう今展に則して、同館コレクションのハイライトをふりかえっておこう。

 まずは20世紀以前の作品として、17世紀オランダの巨匠レンブラント・ファン・レインによる肖像画《広つば帽を被った男》が、来場者を出迎えてくれる。

レンブラント・ファン・レイン《広つば帽を被った男》1635年 DIC川村記念美術館

 さほど大きくない画面の内側から、ひとりの男がこちらを見返している。特別な美男子でもなく歴史に名を残す大人物でもなさそうだが、ひとすじの光を受けて浮かび上がるその佇まいは忘れがたい印象を残す。さすが人の個性を画面に写しとることにかけて、美術史上屈指の手腕を誇るレンブラントの作品である。絵の前を立ち去ったあとも、「だれかと出会った」というはっきりとした感触が我が身に残る。

ピエール・オーギュスト・ルノワール《水浴する女》1891年 DIC川村記念美術館

 レンブラントからほど近い場所に、19世紀後半に存在感を示した印象派の画家たちの作品も掛かる。ルノワール《水浴する女》は、画面全体が柔らかい筆致と色彩で覆われており、人の夢を覗き見ているかのようで陶然とする。実在感に満ちたレンブラントの人物像とは対照的に、こちらは理想化された人物像の極致とでも言おうか。絵画とはじつにさまざまな表現方法があるものだと感心することしきりだ。